2025年末期限の自治体システム標準化とは?背景から移行手順まで徹底解説

- 標準化の目的と背景
全国1,700以上の自治体における基幹業務システムを統一することで、住民サービスの質を均一化し、行政の業務効率とコスト削減を図る。ベンダーロックインの解消やガバメントクラウドの活用も進められている。 - 対象業務と対応スケジュール
住民票、税、福祉、子育て、戸籍など20の業務が標準化対象。2025年度末が移行期限で、段階的な移行とベンダー選定、研修やデータ移行などの準備が必要。難易度の高い業務には期限緩和措置も用意されている。 - 標準化による効果と課題
導入後は業務効率化とコスト削減、住民サービス向上が期待される。一方で初期費用や人材不足、システム間連携の課題もあり、自治体間の連携や国の支援活用が鍵となる。
2025年度末が期限として迫る「自治体システム標準化」。全国1,700以上の自治体が対応を迫られるこの国策は、住民サービスの向上や業務効率化を目指す大規模なシステム改革です。本記事では、システム標準化の背景や目的、ガバメントクラウドの役割、対象となる20業務の詳細に加え、移行スケジュールや具体的な準備手順までを体系的に解説します。自治体職員の方はもちろん、ベンダー企業や関連事業者にとっても、2025年の移行期限までに必要な情報と実践的な対応策を網羅。メリットだけでなく実際の課題や対策、先行事例からの学びも含め、この一大転換期を乗り切るための完全ガイドをお届けします。

自治体システム標準化とは:背景と目的

自治体システム標準化とは、住民サービスの向上と行政運営の効率化を目指し、全国1,700以上ある地方自治体の基幹業務システムを統一・標準化する国の施策です。この取り組みは2025年度末までの完了を目標としており、自治体にとっては重要な転換点となります。
システム標準化の背景と必要性
現在、日本の各自治体では基幹業務システムの仕様が自治体ごとに異なっており、これが様々な問題を引き起こしています。行政手続きのデジタル化が進められる中、その進捗は自治体によって差があり、住民が均一的なデジタルサービスを受けられないという課題があります。
さらに、自治体ごとにシステムのデザインや業務フローの仕様が異なるため、それぞれの自治体が独自のシステム開発をベンダーに依頼する必要があり、結果として多大な開発コストが発生しています。また、システム間のデータ連携が難しく、行政サービスの連携や効率化を阻害する要因となっています。
こうした背景から国は、2020年12月に策定された「自治体デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進計画」の中で、2026年3月末までに基幹業務システムの標準化を完了させる方針を打ち出しました。この計画は「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」に基づくもので、「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化」をビジョンとしています。
「地方公共団体情報システム標準化基本方針」の5つの目標
国は標準化を進めるため「地方公共団体情報システム標準化基本方針」を策定し、以下の5つの目標を掲げています。
①標準化基準の策定による地方公共団体におけるデジタル基盤の整備
全国の自治体で利用される基幹業務システムに適用される標準仕様書を整備し、統一的なデジタル基盤を構築します。
②競争環境の確保
特定のベンダーに依存する「ベンダーロックイン」の状況を解消し、様々なベンダーが参入できる環境を整えることで、技術や価格面での健全な競争を促進します。
③システムの所有から利用への移行
各自治体がシステムを個別に所有する形態から、クラウドサービスとしてシステムを利用する形態への移行を推進します。
④迅速で柔軟なシステムの構築
法令や制度の変更に対して迅速に対応できるシステム基盤を構築し、常に最新の行政サービスを住民に提供できる環境を整えます。
⑤標準準拠システムへの円滑かつ安全な移行とトータルデザインの実現
既存システムから標準準拠システムへの移行を安全かつ効率的に進め、全体として整合性のとれた設計を実現します。
これらの目標が達成されれば、全国の自治体の画一的なデジタル化が進み、住民サービスの向上と行政運営の効率化が期待できます。
自治体DXにおける標準化の位置づけ
自治体システム標準化は、より大きな「自治体DX推進計画」の重要な一部を担っています。政府が2020年に示した「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」では、「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」を目指しています。
この方針を受けて2022年に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」では、自治体が取り組むべき具体的な内容が示されました。その中で「システムの標準化・共通化」は、以下のような「デジタル社会に必要な共通機能の整備・普及」という大きな枠組みの一部として位置づけられています。
- マイナンバー制度・マイナンバーカード
- ガバメントクラウド
- 地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化
- 自治体窓口DX「書かないワンストップ窓口」
- サイバーセキュリティ
- データ戦略 など
自治体DXの推進において、基幹業務システムの標準化は根幹を成す取り組みであり、この標準化なしには真の行政デジタル化は実現できないという位置づけです。標準化を進めることで、自治体間のデータ連携や新たなデジタルサービスの展開が容易になり、DX推進の基盤が整うことになります。
ガバメントクラウドの概要と役割
自治体システム標準化の具体的な実行基盤となるのが「ガバメントクラウド」です。これは政府が構築を進めている政府共通のクラウドサービスの利用環境で、迅速、柔軟、セキュアでコスト効率の高いシステム構築を可能にします。
ガバメントクラウド上には「標準準拠システム」と呼ばれる、標準化の要件を満たしたアプリケーションが構築されます。自治体はこの中から必要なものを選択して活用することになります。ガバメントクラウドには以下のような特徴があります。
- 高いセキュリティ水準:政府共通のセキュリティ基準に基づく、高度なセキュリティ対策が施されています。
- スケーラビリティ:利用状況に応じて柔軟にリソースを拡張できる仕組みを持っています。
- 共同利用によるコスト削減:複数の自治体で共通基盤を利用することによる規模の経済で、コスト削減が期待できます。
- 最新技術の迅速な導入:クラウドサービスの特性を活かして、最新の技術やセキュリティ対策を迅速に導入できます。
ただし、2022年に閣議決定された「地方公共団体情報システム標準化基本方針」では、ガバメントクラウドの利用が必須ではないことも明記されています。性能面や経済合理性等を総合的に判断して、他のクラウド環境が優れていると判断される場合には、それらを利用することも認められています。
標準化されたシステムをガバメントクラウド上に構築することで、自治体は独自のサーバーやハードウェア、OS、アプリケーションなどを自ら整備・管理する負担から解放されます。さらに、情報セキュリティ対策もガバメントクラウドが一括して行うため、これまで各自治体が個別に実施していた対策が不要となり、運用や監視にかかる時間やコストの削減も期待できます。
ガバメントクラウドは2020年度から整備が始まり、2025年度までにその提供体制が完成する予定で、標準準拠システムのプラットフォームとして自治体システム標準化の成否を左右する重要な役割を担っています。
2025年対応:標準化対象の20業務システム徹底解説

自治体システム標準化において「基幹業務」と呼ばれる20の業務が標準化の対象となっています。これらの業務は2021年2月に17業務が、2022年1月に3業務が追加され、合計20業務が標準化の対象として定められました。本セクションでは、これら20業務システムの詳細と標準化への対応ポイントを解説します。
住民基本台帳関連業務の標準化対応
住民基本台帳関連業務は自治体の業務の根幹をなすもので、以下の3つのシステムが標準化の対象となっています。
住民基本台帳システム
住民基本台帳システムは、住民票の編成や管理を行うため、住民の氏名・生年月日・住所等を記録・管理するシステムです。このシステムは、他の基幹業務システムの基礎となるデータを提供する重要な役割を持っています。
標準化対応のポイントとしては、住民情報の正確な管理と、他システムとの連携を円滑に行えるデータ構造の採用が求められます。標準仕様書は総務省から公開されており、標準仕様に準拠したシステムへの移行準備が必要です。
国民年金システム
国民年金システムは、20歳以上の住民が加入する国民年金に関する業務を管理するシステムです。標準化の対象は自治体が行う法定受託事務及び協力連携事務となります。
このシステムは厚生労働省の標準仕様書に基づいて標準化されます。年金事務所との連携や、住民への適切な案内を行うための機能が重要なポイントとなります。
選挙人名簿管理システム
選挙人名簿管理システムは、選挙人名簿や投票の管理など選挙関連業務の効率化を図るためのシステムです。総務省が定める標準仕様書に基づいて標準化が進められています。
標準化に際しては、選挙権を持つ住民の正確な把握と、選挙時の迅速な対応を可能にする機能が求められます。住民基本台帳システムとの円滑な連携も重要なポイントです。
税関連業務システムの標準化要件
税関連業務は自治体の重要な収入源を管理する業務であり、以下の4つのシステムが標準化の対象です。
固定資産税システム
固定資産税システムは、固定資産税の賦課・徴収を行うため、固定資産の評価や課税台帳等を管理するシステムです。土地、家屋、償却資産の適正な評価と課税を行うための機能が必要です。
標準化に当たっては、地理情報システム(GIS)との連携や、複雑な評価計算の標準的な実装方法が規定されています。総務省の税務システム標準仕様書に従った対応が求められます。
個人住民税システム
個人住民税システムは、個人住民税の賦課・徴収を行うため、課税対象者の所得等を管理するシステムです。確定申告データとの連携や、特別徴収事業所との情報交換など、複雑な業務フローへの対応が必要です。
標準化では、eLTAXなどの電子的な税情報連携との整合性や、税制改正への柔軟な対応力が重視されます。
法人住民税システム
法人住民税システムは、法人住民税の賦課・徴収を行うため、法人の申告情報等を管理するシステムです。法人の設立・異動情報の管理と、適切な課税処理が主な機能となります。
標準化においては、法人番号を活用した法人情報の管理や、電子申告への対応が重要なポイントです。
軽自動車税システム
軽自動車税システムは、軽自動車税の賦課・徴収を行うため、軽自動車の登録情報等を管理するシステムです。軽自動車検査情報市区町村提供システム(KAKS)との連携が重要です。
標準化では、軽自動車の取得、異動、廃車等の情報を正確に把握し、適切な課税を行う機能の標準化が図られています。
これら税関連の4システムは、総務省が定める税務システム標準仕様書に基づいて標準化が進められており、自治体間での課税の公平性と効率性を高めることが目指されています。
福祉関連業務システムの標準化ポイント
福祉関連業務は住民の健康と生活を支える重要な業務であり、以下の4つの分野のシステムが標準化対象となっています。
国民健康保険システム
国民健康保険システムは、被保険者の資格等の管理を行うシステムで、加入・脱退の管理や保険料の計算・徴収、給付管理などの機能を持っています。
標準化では、厚生労働省が定める標準仕様書に基づき、オンライン資格確認等システムとの連携や、制度改正への柔軟な対応が重視されています。特に被保険者の適正な管理と、保険料の公平な賦課が重要なポイントです。
障害者福祉システム
障害者福祉システムは、障害者手帳や各種手当に関する情報等の管理を行うシステムです。障害者総合支援法に基づくサービス支給決定や、自立支援医療など複雑な制度への対応が必要です。
標準化においては、厚生労働省の標準仕様書に沿って、障害者の状況に応じた適切なサービス提供をサポートする機能や、給付管理の効率化が重視されています。
後期高齢者医療システム
後期高齢者医療システムは、後期高齢者医療制度に関する資格情報等を管理するシステムです。75歳以上の高齢者(一部65歳以上)を対象とした医療保険制度の運営を支えています。
標準化では、広域連合との情報連携や、高齢者の特性に配慮した分かりやすい通知書の作成など、高齢者に寄り添ったサービス提供が重視されています。
介護保険システム
介護保険システムは、介護保険制度に基づく被保険者管理、要介護認定、保険料賦課・徴収、給付管理などを行うシステムです。高齢化社会において、ますます重要性が高まっている分野です。
標準化においては、要介護認定の適正化や、介護サービス事業者との連携、介護予防事業の推進などの機能が重視されます。厚生労働省の介護保険システム標準仕様書に基づいた対応が求められます。
これらの福祉関連システムは、住民の生活を直接支える重要なシステムであり、標準化によって制度改正への対応コストの削減と、サービス品質の向上が期待されています。
児童・子育て支援関連業務と標準化対応
少子化対策の観点からも重要視されている児童・子育て支援関連業務は、以下の3つのシステムが標準化の対象となっています。
児童手当システム
児童手当システムは、児童手当制度に基づく受給資格者や支給対象児童の情報等を管理するシステムです。児童を養育している方への経済的支援を円滑に行うための基盤となります。
標準化では、こども家庭庁の児童手当システム標準仕様書に基づき、住民基本台帳システムとの連携や、所得判定の自動化、現況届のデジタル化などが重視されています。
児童扶養手当システム
児童扶養手当システムは、児童扶養手当の支給事務に関する業務を管理するシステムです。ひとり親家庭等への支援を効率的に行うための機能を提供します。
標準化においては、厚生労働省の標準仕様書に沿って、所得や養育状況の正確な把握と、適切な手当支給を実現する機能が重視されています。特に、受給者の利便性向上と事務の効率化のバランスが求められます。
子ども・子育て支援システム
子ども・子育て支援システムは、子どものための教育・保育給付や子育てのための施設等利用給付などに関する業務を管理するシステムです。保育所入所調整や給付管理など、複雑な業務をサポートします。
標準化では、こども家庭庁の子ども・子育て支援システム標準仕様書に基づき、多様な保育ニーズへの対応や、利用者支援の充実が重視されています。特に、待機児童対策や保育の質向上のための機能が重要なポイントです。
これらの児童・子育て支援関連システムは、出生率の低下に対応する国家的課題であり、自治体の創意工夫を活かしつつ、基本的な機能は標準化することで、より質の高いサービス提供を目指しています。
戸籍・その他業務の標準化要件
戸籍関連業務およびその他の重要業務について、以下の6つのシステムが標準化の対象となっています。
戸籍システム
戸籍システムは、戸籍の編成、管理等を行うシステムで、日本国民の身分関係を公証する重要な役割を担っています。法務省の戸籍情報システム標準仕様書に基づいて標準化が進められています。
標準化においては、戸籍の電子化(戸籍副本データ管理システムとの連携)や、マイナンバー制度との連携が重要なポイントです。個人情報保護に配慮した高度なセキュリティ対策も必須の要件となっています。
戸籍附票システム
戸籍附票システムは、住民基本台帳制度上の戸籍の附票事務を管理するシステムです。戸籍と住民基本台帳をつなぐ重要な役割を果たしており、総務省の戸籍附票システム標準仕様書に基づく標準化が進められています。
標準化のポイントは、戸籍システムと住民基本台帳システムとの円滑な連携であり、住民の転入・転出・転居などの情報を正確に反映する機能が重視されています。
生活保護システム
生活保護システムは、生活保護制度に基づく申請・決定、ケースワーク等の業務を管理するシステムです。生活に困窮する方への適切な支援を提供するための基盤となります。
標準化においては、厚生労働省の生活保護システム標準仕様書に基づき、生活保護の適正実施や、被保護者の自立支援機能の充実が重視されています。特に、ケースワーカーの業務効率化と、支援の質向上を両立させる機能が求められます。
健康管理システム
健康管理システムは、地方自治体が行う健康教育や健康相談などの健康増進事業等を管理するシステムです。健診データの管理や、保健指導の記録など、住民の健康増進を支える機能を提供します。
標準化では、厚生労働省の健康管理システム標準仕様書に沿って、科学的根拠に基づく保健事業の推進や、データヘルスの推進が重視されています。特定健診・特定保健指導のデータ活用など、予防医療の強化につながる機能が重要です。
就学システム
就学システムは、地方自治体が行う学齢簿編成や就学補助業務を管理するシステムです。児童・生徒の就学状況の管理や、就学援助など、教育機会の確保を支える機能を提供します。
標準化においては、文部科学省の就学事務システム標準仕様書に基づき、就学前の児童から義務教育期間の一貫した管理や、就学援助の適切な運用が重視されています。特に、教育機会の平等確保と、事務の効率化を両立させる機能が求められます。
印鑑登録システム
印鑑登録システムは、印鑑登録証明業務等を管理するシステムです。住民の権利を保護するための重要な公証サービスを支えています。
標準化では、総務省の印鑑登録システム標準仕様書に沿って、正確な印鑑情報の管理と、円滑な証明書発行機能が重視されています。近年のデジタル化の流れの中で、従来の印鑑文化と電子認証の融合も視野に入れた対応が求められています。
これらの戸籍・その他業務システムは、住民の重要な権利に関わるものが多く、高い信頼性と正確性が求められる分野です。標準化によって、サービスの質を維持しつつ、運用コストの削減と業務効率化が期待されています。
2025年度末までの移行スケジュールと対応計画

自治体システム標準化は2025年度末までに完了することが目標とされており、限られた時間の中で確実に移行作業を進める必要があります。このセクションでは、標準化移行に向けたスケジュールや対応方針について詳しく解説します。
標準化移行の全体スケジュールと重要マイルストーン
自治体システム標準化に向けた全体スケジュールは以下のように設定されています。
主要マイルストーン
- 2020年12月:「自治体DX推進計画」策定
- 2021年2月:17業務を標準化対象として指定
- 2022年1月:3業務を追加し、計20業務を標準化対象と決定
- 2022年8月31日:全20業務の標準仕様書が出揃う
- 2022年10月:「地方公共団体情報システム標準化基本方針」閣議決定
- 2023年4月:移行支援期間の開始
- 2025年度末(2026年3月):標準準拠システムへの移行期限
ガバメントクラウド関連の動き
- 2020年度〜2025年度:ガバメントクラウドの整備
- 2020年度〜2025年度:ガバメントクラウドの提供(地方公共団体関係)
- 2023年度〜2025年度:地方公共団体の標準準拠システムへの移行期間
自治体は、この全体スケジュールを踏まえて、各自治体の状況に合わせた移行計画を策定する必要があります。特に、移行作業の煩雑さや既存システムの契約更新時期などを考慮した上で、無理のない移行スケジュールを立てることが重要です。
移行支援期間(2023年4月〜2026年3月)の活用方法
政府は2023年4月から2026年3月までを「移行支援期間」として位置づけており、この期間中に様々な支援策を提供しています。自治体はこの支援期間を有効活用して、円滑な移行を実現することが求められます。
主な支援策
- 財政支援:「デジタル基盤改革支援補助金」などによる移行費用の一部補助
- 技術支援:標準仕様書の解説や技術的な質問への回答
- 情報提供:標準化・共通化に関する最新情報の提供やFAQの公開
- 相談窓口:標準化に関する質問や相談を受け付ける窓口の設置
移行支援期間の効果的な活用ポイント
- 早期の情報収集:標準仕様書や移行ガイドラインなどの資料を早期に入手し、理解を深める
- 段階的な移行計画:全システムを一度に移行するのではなく、業務の重要度や複雑さに応じて段階的に移行する計画を立てる
- 研修への参加:自治体職員向けの研修や説明会に積極的に参加し、必要な知識とスキルを習得する
- ベンダーとの早期協議:現行システムの提供ベンダーと早期に協議を始め、移行方針を共有する
- 他自治体との情報交換:先行して移行を進めている自治体との情報交換を通じて、教訓や好事例を学ぶ
移行支援期間は限られているため、計画的かつ効率的に活用することが、2025年度末の期限までに確実に移行を完了させるためのカギとなります。
難易度の高いシステムの期限緩和措置と対応
当初は全ての基幹業務システムを一律に2025年度末までに移行することが求められていましたが、移行作業の実態を踏まえ、一部の難易度が高いシステムについては個別に期限を設定できるよう緩和措置が講じられました。
期限緩和の背景
移行期間中にベンダーへの業務が集中し、対応してもらえない自治体が発生するなどの問題が浮き彫りになったことから、「地方公共団体情報システム標準化基本方針」が見直され、特に難易度の高いシステムについては柔軟な対応が認められるようになりました。
対象となる可能性の高いシステム
- 戸籍システム:個人情報保護の観点から特に慎重な対応が必要
- 固定資産税システム:評価計算が複雑で、データ移行に時間を要する
- 介護保険システム:多岐にわたる制度への対応が必要
期限緩和を適用する場合の対応
- 緩和申請の検討:システムの複雑さや移行の難易度を評価し、期限内の移行が困難と判断される場合は緩和措置の適用を検討
- 移行計画の見直し:緩和措置を適用する場合でも、できるだけ早期の移行を目指し、具体的な計画を立案
- 段階的移行の検討:部分的な機能から順次移行するなど、段階的なアプローチも検討
- 代替手段の準備:緩和期間中も住民サービスを維持するための代替手段や暫定対応を準備
ただし、基本方針では原則として2025年度末という期限は変わっていないため、緩和措置はあくまで例外的な扱いとなることに注意が必要です。期限緩和を適用する場合でも、できるだけ早期の移行完了を目指すことが求められます。
規模別自治体の移行計画策定ポイント
自治体の規模によって、システム標準化への対応方法や課題は異なります。ここでは、規模別の移行計画策定のポイントを解説します。
大規模自治体(政令指定都市・中核市等)
大規模自治体では、システムの規模や独自カスタマイズが多いことから、標準仕様との差分が大きくなる傾向があります。
- 専門チームの結成:標準化対応のための専門チームを早期に結成し、組織的な対応体制を整備
- 独自カスタマイズの整理:現行システムの独自カスタマイズを洗い出し、標準仕様で対応可能か評価
- 業務プロセスの見直し:標準仕様に合わせた業務プロセスの見直しを計画的に実施
- 段階的移行計画:複数システムの移行リスクを分散するため、段階的な移行計画を策定
- ベンダーとの綿密な協議:複雑なシステム構成を考慮し、ベンダーと綿密な移行計画を協議
中規模自治体(一般市)
中規模自治体では、専門人材の確保と効率的な移行プロセスの構築が重要になります。
- 人材の確保・育成:IT人材の確保または育成を優先し、移行作業の中核を担う職員を育成
- 現行システムの棚卸し:現行システムの機能や使用状況を詳細に把握し、標準仕様との差分を分析
- 近隣自治体との連携:近隣自治体と情報共有や共同対応を検討し、リソースを有効活用
- 優先順位の明確化:業務への影響度や移行の難易度を考慮し、システム移行の優先順位を明確化
小規模自治体(町村)
小規模自治体では、限られた人的・財政的リソースの中で、効果的な標準化対応が求められます。
- 外部リソースの活用:都道府県の支援や外部コンサルタントの活用を検討
- 自治体クラウドの活用:複数の小規模自治体が共同でシステムを利用する「自治体クラウド」の形態を検討
- シンプルな移行計画:複雑な段階的移行ではなく、一括移行などシンプルな計画を検討
- 標準機能の最大活用:カスタマイズを最小限に抑え、標準機能を最大限活用する方針を明確化
共通の注意点
規模にかかわらず、全ての自治体が考慮すべき共通のポイントもあります。
- 予算確保:移行に必要な予算を計画的に確保し、財政部門との早期調整を実施
- 住民サービスの継続性:移行期間中も住民サービスが途切れないよう、万全の準備を行う
- データ移行の検証:特に住民情報などの重要データの移行については、入念な検証を計画
- 職員研修:新システムの操作方法や業務フローの変更点について、十分な研修期間を確保
自治体の規模や特性に応じた現実的な移行計画を策定し、限られた時間の中で着実に標準化対応を進めることが、2025年度末の期限を迎えるにあたっての鍵となります。
自治体システム標準化:ガバメントクラウドへの移行手順

自治体システムを標準準拠システムへ円滑に移行するためには、体系的かつ計画的なアプローチが必要です。本セクションでは、ガバメントクラウドへの移行手順と実践的なポイントを解説します。
現行システムの構成・機能分析と標準仕様との差分評価
移行の第一歩は、現行システムを正確に把握し、標準仕様との差分を明らかにすることです。この段階での丁寧な分析が、後工程での混乱を防ぎ、円滑な移行の基盤となります。
現行システムの構成・機能分析の方法
現行システムの分析では、以下の項目を詳細に調査・記録します。
- 業務システムの基礎情報:システム名、導入時期、バージョン、主要機能など
- 外部への委託状況:運用保守の委託内容、契約期間、金額など
- 現行システム利用拠点:どの部署・窓口でシステムを利用しているか
- 業務主管部署ごとのシステム利用状況:各部署での利用頻度や重要業務
- データ量:取り扱うデータの種類、件数、サイズなど
- 周辺機器:プリンタ、スキャナなどの接続機器情報
- システム間でのデータ連携状況:他システムとの連携方法や頻度
- カスタマイズ状況:標準パッケージからのカスタマイズ内容と理由
これらの情報は、現行システムのベンダーからの情報提供を受けるとともに、実際の利用部署へのヒアリングを通じて収集します。特に「なぜそのカスタマイズが必要だったのか」という背景情報は、標準準拠システムでの対応方針を検討する上で重要です。
標準仕様との差分分析テクニック
収集した現行システム情報をもとに、標準仕様との差分を分析します。
- 機能マッピング:現行システムの機能と標準仕様の機能を一覧表でマッピングし、一致・不一致を可視化
- ギャップ分析:標準仕様にない現行の独自機能や、標準仕様にあるが現行システムにない機能を抽出
- 影響度評価:差分機能の業務への影響度を「高・中・低」で評価
- 対応方針の検討:各差分項目に対する対応方針(業務プロセス変更、代替機能利用、外部システム活用など)を検討
特に重要なのは、現行システムの独自機能が標準仕様でどこまでカバーできるかの評価です。標準仕様で対応できない機能については、業務プロセスの見直しや、標準準拠システム以外での対応(例:Excel等のツール活用)などの代替案を検討します。
分析結果の評価と報告
差分分析の結果は、関係部署と共有し、移行に伴う業務影響を評価します。特に影響の大きい差分については、業務主管部署と十分な協議を行い、移行後の対応方針を合意しておくことが重要です。この分析結果は、後述する移行計画の策定における重要な基礎資料となります。
効果的な移行計画の策定と体制づくり
現行システムと標準仕様の差分が明らかになったら、次は具体的な移行計画の策定と、それを支える体制づくりを行います。
移行計画に盛り込むべき要素
効果的な移行計画には、以下の要素を含める必要があります。
- 移行目的:標準化移行の意義と目的の明確化
- 移行方針:段階的移行か一括移行か、優先順位、基本的アプローチ
- 調達する範囲や単位:どのシステムをどのような組み合わせで調達するか
- 調達方式:プロポーザル方式、総合評価方式などの選定方法
- スケジュール:各フェーズの開始・終了時期、マイルストーン
- 移行による課題と対策:予想される課題とその解決策
- 推進体制:責任者、担当者、意思決定プロセス
- 予算計画:システム導入費、運用費、研修費などの見積り
- データ移行計画:移行するデータの範囲、方法、検証手順
- 研修計画:職員向け研修の内容、スケジュール
効果的な体制づくり
自治体システム標準化のような大規模プロジェクトには、適切な体制づくりが不可欠です。
- プロジェクト統括部門:CIO(最高情報責任者)またはその代理者が指揮し、全体を統括
- 情報システム部門:技術面での検討や調整を担当
- 業務主管部門:各業務システムの要件定義や業務運用の検討を担当
- 財政部門:予算確保や費用管理を担当
- 外部アドバイザー:必要に応じてIT専門家やコンサルタントを活用
特に重要なのは、情報システム部門と業務主管部門の連携です。システム面の知識と業務面の知識の両方を持ち寄ることで、実践的かつ効果的な移行計画を策定できます。また、定期的な進捗会議を開催し、関係部署間での情報共有と課題解決を図ることも重要です。
移行計画の共有と合意形成
策定した移行計画は、関係部署はもちろん、自治体のトップマネジメント(首長、副首長など)にも説明し、承認を得ることが重要です。特に、移行に伴う一時的な業務負荷増加や、一部機能の変更・廃止などについては、事前に十分な理解と協力を得ておく必要があります。
また、議会への説明も適宜行い、標準化移行の意義や予算措置の必要性について理解を求めることも考慮すべきです。
標準化対応ベンダー選定・契約時の重要ポイント
移行計画の策定後、次のステップはベンダー選定です。標準準拠システムを提供するベンダーの選定は、移行の成否を左右する重要な工程となります。
ベンダー選定の基本ステップ
- 情報収集:標準準拠システムを提供するベンダーの情報収集
- 要件定義:自治体のニーズに基づく要件の明確化
- 調達仕様書の作成:具体的な調達条件の明文化
- 公募・提案依頼:ベンダーへの提案依頼書(RFP)の送付
- 提案評価:各ベンダーの提案内容の比較評価
- 選定・契約:最適なベンダーの選定と契約締結
ベンダー選定時のチェックポイント
標準準拠システムのベンダーを選定する際の重要なチェックポイントは以下の通りです。
- 標準仕様への準拠度:提供システムが標準仕様に完全に準拠しているか
- 移行実績:他の自治体での標準化移行の実績と成果
- データ移行の方法論:現行システムからのデータ移行手法の確立度
- サポート体制:導入・運用時のサポート体制の充実度
- 研修プログラム:職員向け研修の内容と方法
- セキュリティ対策:情報セキュリティへの取り組み状況
- コスト構造:初期費用と運用費用のバランスと透明性
- 拡張性・柔軟性:将来的な制度改正や機能拡張への対応能力
特に、標準仕様への準拠度と、現行システムからのデータ移行方法については、詳細な説明を求め、慎重に評価することが重要です。また、移行後の運用コストについても、長期的な視点で検討する必要があります。
契約時の注意点
ベンダーとの契約締結時には、以下の点に注意が必要です。
- 標準準拠の保証:提供システムが標準仕様に準拠していることの明記
- SLA(サービスレベル合意):サービス品質に関する明確な基準と保証
- データ移行の責任範囲:データ移行における自治体とベンダーの役割分担
- 追加費用の発生条件:どのような場合に追加費用が発生するかの明確化
- 契約期間と更新条件:契約期間と更新時の料金見直し条件
- 障害時の対応:システム障害時の対応プロセスと責任範囲
- 解約条件:契約解除時の条件とデータ返却方法
契約内容は法務部門や外部の専門家にも確認してもらい、潜在的なリスクを最小化することが望ましいでしょう。
デジタル庁との契約
ガバメントクラウドを利用する場合、ベンダーとの契約に加えて、デジタル庁との間で以下の契約を締結する必要があります。
- ガバメントクラウド利用権付与・運用管理委託契約:ガバメントクラウドの利用権限に関する契約
- ガバメントクラウド運用管理補助委託契約:運用管理に関する契約
これらの契約内容についても十分に理解し、必要に応じてデジタル庁に問い合わせることが重要です。
データ移行と運用テストの実践的アプローチ
ベンダー選定・契約締結後、実際のシステム移行作業に入ります。特に重要なのが、データ移行と運用テストのプロセスです。
データ移行の基本ステップ
- 移行データの範囲決定:移行すべきデータの種類や範囲を決定
- データクレンジング:現行システムのデータを整理・クリーニング
- データマッピング:現行システムと新システムの項目対応付け
- 変換ルールの策定:データ形式や値の変換ルールを決定
- テスト移行:一部データで移行テストを実施
- 検証・修正:テスト結果を検証し、必要に応じて修正
- 本番移行:全データの移行を実施
- 最終検証:移行後のデータの整合性を検証
データ移行時の注意点
データ移行は標準化対応の中でも特に注意を要する工程です。以下のポイントに留意しましょう。
- データの完全性確保:データの欠損や重複がないように、移行前後で件数や主要項目の一致を確認
- コード体系の違い:現行システムと標準準拠システムのコード体系の違いを把握し、適切な変換ルールを設定
- 履歴データの取扱い:過去の履歴データをどこまで移行するか、業務上の必要性を踏まえて決定
- 文字コードの問題:外字や特殊文字の取扱いについて、事前に方針を決定
- バックアップの確保:移行前の全データのバックアップを取得し、問題発生時に復旧できる体制を整備
- 移行リハーサル:本番移行前に、実データを用いた移行リハーサルを実施し、所要時間や問題点を把握
特に住民情報など重要データの移行については、慎重な検証が必要です。移行データの検証は、システム担当者だけでなく、実際の業務担当者にも参加してもらい、業務の観点からも正確性を確認することが重要です。
運用テストの進め方
データ移行後、新システムが正常に動作するかを確認するための運用テストを実施します。
- 単体テスト:個々の機能が正常に動作するかをテスト
- 連携テスト:他システムとの連携が正常に機能するかをテスト
- 業務シナリオテスト:実際の業務フローに沿ったシナリオでのテスト
- 負荷テスト:多数のユーザーが同時アクセスした場合の性能確認
- 障害復旧テスト:障害発生時の対応手順の確認
テスト実施の実践的ポイント
- テスト計画の策定:テスト範囲、方法、スケジュール、担当者を明確にした計画を策定
- テストシナリオの準備:実際の業務を反映した現実的なシナリオを準備
- テスト環境の整備:本番に近い環境でテストを実施できるよう環境を整備
- テスト結果の記録:テスト結果や発見された問題点を詳細に記録
- 業務担当者の参加:実際のシステム利用者である業務担当者にテストに参加してもらい、使いやすさや業務適合性も評価
- 問題点の管理と解決:発見された問題の重要度を評価し、優先度をつけて解決
職員研修の実施
新システムの運用開始に向けて、職員向けの研修も重要なステップです。
- 研修計画の策定:対象者、内容、スケジュールを明確にした研修計画を策定
- 段階的な研修:基本操作から応用操作まで、段階的に研修を実施
- 操作マニュアルの整備:分かりやすい操作マニュアルを整備し、いつでも参照できるようにする
- フォローアップ研修:本稼働後も、必要に応じてフォローアップ研修を実施
研修は単なる操作方法の説明にとどまらず、標準化の意義や新システムによる業務改善のポイントも伝えることで、職員の前向きな受け入れを促すことが大切です。
移行切替と本番稼働
全ての準備が整ったら、実際の移行切替と本番稼働に移ります。
- 移行切替計画の策定:切替日時、手順、役割分担、緊急時対応などを明確にした計画を策定
- 切替リハーサル:本番切替前に、切替手順のリハーサルを実施
- 本番データ移行:計画に沿って本番データの最終移行を実施
- 動作確認:移行後の初期動作を確認
- 本番稼働開始:新システムでの業務開始
- 初期運用サポート:稼働直後は手厚いサポート体制を整備
移行切替は、業務への影響を最小限に抑えるため、週末や連休を活用するなど、適切なタイミングを選ぶことが重要です。また、万が一の問題発生時に備えて、旧システムへの緊急復旧手順も準備しておくことが望ましいでしょう。
これらのステップを丁寧に進めることで、標準準拠システムへの円滑な移行が実現し、自治体のデジタル化による業務効率の向上と住民サービスの充実を実現することができます。
自治体システム標準化によるメリットと導入効果

自治体システムの標準化は、単なるシステム更新ではなく、自治体業務の在り方そのものを変革する取り組みです。本セクションでは、標準化によってもたらされる具体的なメリットと導入効果について解説します。
コスト削減効果と業務効率の向上
自治体システム標準化の大きなメリットの一つが、コスト削減と業務効率の向上です。
コスト削減効果
「地方公共団体情報システム標準化基本方針」では、自治体システムの標準化によって「標準化対象事務に関する情報システムの運用経費等の3割削減の実現につなげる」という目標が掲げられています。具体的なコスト削減効果は以下の点に現れます。
- 制度改正対応コストの削減:基幹業務システムは関連する法律等に基づいて運営されていますが、法律改正などで制度に変更が生じた場合、従来はシステム改修に多額のコストがかかっていました。標準化により、クラウド上のシステムを一括で改修するだけで全国の自治体に反映できるため、各自治体の個別対応コストが大幅に削減できます。
- 調達コストの適正化:標準仕様に基づくシステムの採用により、ベンダー間の競争環境が確保され、価格の透明化・適正化が進みます。特定ベンダーへの依存(ベンダーロックイン)が解消されることで、より適正な価格でのシステム調達が可能になります。
- ハードウェア関連コストの削減:クラウドサービスの利用により、サーバーなどのハードウェア購入・保守や、サーバールームの維持管理といったコストが不要になります。
- 運用保守の効率化:標準化されたシステムでは、運用ノウハウの共有や、マニュアル・FAQ等の共通化が進み、運用保守の効率化が図れます。
試算例
ある中規模自治体(人口約15万人)の場合、基幹業務システム全体の年間運用コストが約2億円だったところ、標準準拠システムへの移行後は約1.4億円に削減されるという試算があります。特に法改正対応や機能改修などのコストが大幅に削減されました。ただし、これはあくまで一例であり、自治体の規模や現行システムの状況によって削減効果は異なります。
業務効率の向上
コスト面だけでなく、業務効率の面でも大きな効果が期待できます。
- システム改修業務の効率化:標準化以前は改修の都度、独自のシステムに対してどのように対処すべきか自治体とベンダーが協議を行う必要があり労力を要しました。標準化により、こうした調整業務が大幅に削減されます。
- 業務プロセスの最適化:標準仕様に基づくシステムは、効率的な業務プロセスを前提として設計されています。これにより、これまで慣習的に行われてきた非効率な業務プロセスの見直しが進みます。
- 職員のシステム習熟の効率化:全国共通の標準準拠システムとなるため、自治体間の人事異動があっても、システム操作方法の再学習の負担が軽減されます。
- 研修や問い合わせ対応の効率化:標準的な操作方法やトラブル対応が全国共通となるため、研修やマニュアルの共通化、問い合わせ対応の効率化が図れます。
人的リソースの再配分
業務効率化によって生まれた時間的余裕は、より質の高い住民サービスの提供や、新たな政策立案など、自治体本来の業務に振り向けることができます。特に、これまでシステム関連業務に多くの時間を割いていた情報システム部門の職員が、より戦略的なIT活用やデジタル化推進に注力できるようになる点は大きなメリットです。
また、少子高齢化による自治体職員の減少が予想される中、業務効率化によって持続可能な行政運営体制を構築できる点も重要です。
住民サービスの向上と具体的改善事例
自治体システム標準化の最終的な目的は、住民に対するサービスの向上です。標準化によってどのような住民サービスの向上が期待できるのでしょうか。
住民サービス向上の具体例
- 窓口対応の迅速化:標準化されたシステムの導入により、窓口での処理時間が短縮され、住民の待ち時間が減少します。
- 書類手続きの簡素化:システム間の連携が強化されることで、複数の部署にまたがる手続きが簡素化され、住民の負担が軽減されます。
- オンラインサービスの拡充:標準準拠システムは、オンライン申請などのデジタルサービスとの連携が考慮されており、「いつでも、どこでも」行政サービスを受けられる環境整備が進みます。
- サービス品質の均一化:全国どの自治体でも同じレベルのサービスを受けられるようになり、地域間格差が縮小します。
- 災害時のシステム復旧の迅速化:クラウド上のシステムとなるため、災害時でもデータ喪失のリスクが低減し、早期のシステム復旧が可能になります。
具体的改善事例
先行して標準準拠システムを導入した自治体では、以下のような改善事例が報告されています。
- 転入手続きの効率化:ある自治体では、標準準拠システムの導入により、転入手続きの処理時間が平均20分から15分に短縮されました。これは窓口での入力作業の効率化と、関連システムとのスムーズな連携によるものです。
- 子育て関連手続きのワンストップ化:児童手当や子ども医療費助成など、複数の子育て関連手続きを一括して行えるようになり、子育て世帯の負担が軽減された事例があります。
- オンライン申請と窓口処理の連携強化:マイナポータルなどからのオンライン申請データがスムーズに基幹システムに取り込まれるようになり、窓口での二重入力が解消された事例もあります。
- 証明書発行の迅速化:住民票や税証明などの発行時間が短縮され、窓口や証明書コーナーでの待ち時間が減少した自治体もあります。
将来的なサービス向上の可能性
標準化の完了後には、さらに以下のようなサービス向上が期待されています。
- 自治体間でのサービス連携:引っ越しなどで自治体をまたぐ場合でも、データ連携によりスムーズな手続きが可能になります。
- プッシュ型サービスの拡充:住民情報を基に、受けられる可能性のあるサービスを自治体側から案内するプッシュ型サービスの拡充が進みます。
- AIやチャットボットの活用:標準化されたデータを活用したAIやチャットボットによる住民サポートの充実が図れます。
- データに基づく政策立案:標準化されたデータを分析することで、より実効性の高い政策立案が可能になり、住民ニーズに即したサービスの提供につながります。
これらのサービス向上により、住民満足度の向上と、「住みたい自治体」としての魅力向上にもつながることが期待されています。
ベンダーロックイン解消と調達環境の変化
自治体システム標準化のもう一つの重要なメリットが、ベンダーロックインの解消と、それに伴う調達環境の健全化です。
ベンダーロックインとは
ベンダーロックインとは、特定のベンダー(開発・提供事業者)のシステムやサービスに依存してしまい、他のベンダーへの乗り換えが困難になる状態を指します。従来の自治体システムでは、以下のような理由でベンダーロックインが生じていました。
- 独自仕様のシステム:自治体ごとに仕様がカスタマイズされ、他ベンダーが参入しにくい状況
- データ移行の困難さ:独自形式のデータを他システムに移行することの技術的・コスト的な障壁
- 業務ノウハウの蓄積:特定ベンダーに自治体の業務ノウハウが蓄積され、乗り換えリスクが高まる状況
ベンダーロックイン解消のメカニズム
標準化によるベンダーロックイン解消のメカニズムは以下の通りです。
- 標準仕様の採用:全国共通の標準仕様に基づくシステムとなるため、ベンダー固有の独自仕様が排除されます。
- データ形式の標準化:データ形式や連携方式が標準化されることで、他ベンダーへのデータ移行の障壁が低下します。
- API連携の標準化:システム間の連携インターフェース(API)が標準化され、多様なベンダーのシステムを組み合わせて利用しやすくなります。
- 運用ノウハウの共通化:標準準拠システムの運用ノウハウが共通化され、特定ベンダーの知見に依存する度合いが低下します。
調達環境の変化
ベンダーロックインの解消により、自治体のシステム調達環境は以下のように変化します。
- 競争環境の活性化:標準仕様に基づくシステムを提供する複数のベンダーが競争することで、価格の適正化と品質向上が促進されます。
- 中小ベンダーの参入機会増加:標準仕様に基づく開発によって開発コストが低減し、中小ベンダーも参入しやすくなります。
- 調達単位の柔軟化:標準化されたAPIにより連携が容易になることで、業務ごとに最適なシステムを選択する「ベスト・オブ・ブリード」方式の採用も容易になります。
- 価格の透明化:標準的な機能セットに対する価格が比較可能となり、価格の透明性が高まります。
自治体のシステム調達戦略の変化
このような環境変化を踏まえ、自治体のシステム調達戦略も変わっていくことが予想されます。
- 機能と価格のバランス重視:単に価格の安さだけでなく、使いやすさや拡張性など、機能と価格のバランスを重視した選定が可能になります。
- サポート品質の評価:標準的な機能が保証される中で、研修やサポート体制の充実度など、付加的なサービス品質が選定の重要な要素となります。
- 地域ベンダーとの協業:地域に密着した中小ベンダーとの協業がしやすくなり、地域経済への貢献と良質なサービス提供の両立が図れます。
- 複数自治体での共同調達:標準準拠システムの特性を活かし、複数の自治体が共同でシステムを調達する「自治体クラウド」の取り組みが加速する可能性があります。
これらの変化は、自治体にとってより適正な価格で質の高いシステムを導入できる環境をもたらすとともに、IT業界にとっても健全な競争環境の中で技術革新を進める契機となることが期待されています。
データ連携・一元管理による新たな行政サービス創出
自治体システム標準化の進展に伴い、これまで個別に管理されていた行政データの連携・一元管理が進むことで、新たな行政サービスの創出が期待されています。
データ連携・一元管理の基盤整備
標準化によるデータ連携・一元管理の基盤整備は以下のように進みます。
- データ形式の標準化:住民情報や各種証明情報など、基本的なデータの形式が標準化されます。
- API連携の標準化:システム間でのデータ連携インターフェース(API)が標準化され、円滑なデータ連携が可能になります。
- 自治体間データ連携の促進:標準化された形式のデータを利用することで、自治体間でのデータ連携が容易になります。
- マイナンバー制度との連携強化:標準準拠システムはマイナンバー制度との連携を前提に設計されており、法令の範囲内でのデータ連携が強化されます。
新たな行政サービスの可能性
データ連携・一元管理の進展により、以下のような新たな行政サービスの創出が期待されています。
- ライフイベントに応じたワンストップサービス:出生、入学、転居、結婚などのライフイベントに応じて、関連する複数の手続きを一括して行えるサービスの提供が可能になります。例えば、子どもの出生時に、出生届、児童手当申請、子ども医療費助成申請などを一括で行えるようになります。
- プッシュ型サービスの充実:住民の属性や状況に応じて、受けられる可能性のある支援やサービスを自治体から積極的に案内するプッシュ型サービスの提供が可能になります。例えば、一定の所得条件に合致する世帯に対して、利用可能な補助金や支援制度を自動的に案内するなどの取り組みが考えられます。
- デジタルツインによる行政サービス:実世界の情報をデジタル空間に再現する「デジタルツイン」の技術を活用し、都市計画や防災、施設管理などの高度化が図れます。
- AIを活用した予測型行政:蓄積された行政データをAIで分析することにより、将来的な課題を予測し、先手を打った対策を講じる「予測型行政」の実現が期待されます。
- パーソナライズされた行政サービス:住民一人ひとりの状況やニーズに合わせた、パーソナライズされた行政サービスの提供が可能になります。
自治体間連携による新サービス
自治体システムの標準化は、自治体間の連携による新たなサービス創出にも寄与します。
- 広域連携サービス:複数の自治体が連携して提供する広域的なサービスの構築が容易になります。例えば、広域観光情報の提供や、災害時の広域支援体制の強化などが考えられます。
- 住所地以外での行政サービス利用:標準化されたデータ連携により、住所地以外の自治体でも一部の行政サービスを利用できる可能性が広がります。
- 自治体間のノウハウ共有:標準化された環境下で、優れた行政サービスのノウハウが自治体間で共有・展開されやすくなります。
データ活用のポイントと課題
これらの新たなサービス創出を実現するためには、以下のポイントに留意する必要があります。
- 個人情報保護との両立:データ連携・活用と個人情報保護のバランスを適切に確保することが重要です。
- データガバナンスの確立:データの品質管理や責任所在の明確化など、適切なデータガバナンス体制の構築が必要です。
- デジタルデバイド対策:新たなデジタルサービスの提供と並行して、デジタル技術の利用に不慣れな住民への配慮や支援も重要です。
- 人材育成:データを活用した行政サービス創出を担う人材の育成も課題となります。
自治体システム標準化は、単にシステムを統一するだけでなく、データの連携・活用を通じて、より質の高い、住民中心の行政サービスを創出するための基盤となることが期待されています。
標準化2025の課題と対策:先行事例から学ぶ

自治体システム標準化には多くのメリットがある一方で、実際の移行過程ではさまざまな課題も浮き彫りになっています。本セクションでは、標準化の課題と対策について、先行自治体の事例を交えながら解説します。
初期導入コストと想定外のランニングコスト対策
自治体システム標準化における財政面での主な課題は、初期導入コストの発生と、想定外のランニングコスト増加です。
初期導入コストの課題
標準準拠システムへの移行には、以下のような初期導入コストが発生します。
- 新システム導入費用:標準準拠システムのライセンス料や設定費用
- データ移行費用:現行システムから新システムへのデータ移行費用
- 環境構築費用:ネットワーク環境の整備や周辺機器の対応費用
- 研修・運用準備費用:職員研修や運用手順書の整備等の費用
- 並行運用費用:移行期間中の新旧システム並行運用に伴う費用
これらの費用は自治体の規模や現行システムの状況によって異なりますが、総額で数千万円から数億円に達するケースもあります。さらに、全国の自治体が同時期に移行を進めるため、ベンダーの対応リソースがひっ迫し、費用の高止まりが懸念されています。
初期導入コスト対策
先行自治体の事例から、以下のような初期導入コスト対策が有効であることがわかっています。
- 国の補助金の活用:「デジタル基盤改革支援補助金」などの国の補助制度を最大限活用する
- 段階的な移行計画:全システムを一度に移行するのではなく、優先度に応じた段階的な移行により、単年度の財政負担を分散させる
- 共同調達の検討:近隣自治体と共同でシステム調達を行い、スケールメリットを活かしたコスト削減を図る
- 移行範囲の最適化:過去データの移行範囲を必要最小限に絞るなど、移行作業の効率化を図る
- 複数ベンダーからの提案比較:複数のベンダーから提案を受け、費用対効果の高い提案を選定する
先行事例では、特に複数自治体による共同調達が効果的なコスト削減策となっています。例えば、A県内の5つの市町村が共同で標準準拠システムを調達した事例では、個別調達に比べて約20%のコスト削減に成功しています。
想定外のランニングコスト増加の問題
基本方針では標準化システムによって既存システムのランニングコストを3割削減することを目標としていましたが、実際には以下のような理由でランニングコストが増加するケースも報告されています。
- クラウドサービス料金の増加:オンプレミス環境からクラウド環境への移行に伴う利用料金の増加
- 機能分割による複数システム契約:標準準拠システムへの移行で、これまで一体だった機能が分割され、複数システムの契約が必要になるケース
- インフレや人件費高騰の影響:近年の物価上昇や人件費高騰がシステム料金に反映されるケース
- ネットワーク環境の強化費用:クラウドサービス利用に伴うネットワーク環境の強化費用
先行してシステムの標準化を実施した自治体の中には、ランニングコストが20〜30%増加したという報告もあります。
ランニングコスト対策
想定外のランニングコスト増加に対しては、以下のような対策が有効です。
- 長期契約によるコスト抑制:複数年契約によって単年度あたりのコストを抑制する
- SLA(サービスレベル合意)の適正化:必要以上に高いサービスレベルを要求せず、コストとサービス水準のバランスを最適化する
- 定期的な料金見直し条項の導入:契約に定期的な料金見直しの条項を設け、市場価格の変動に対応できるようにする
- 利用状況の定期的な分析:システムの利用状況を定期的に分析し、不要なリソースやオプションを最適化する
- 自治体クラウドの活用:複数自治体での共同利用によるスケールメリットを活かす
先行事例では、B市の場合、ベンダーと協議の上、オプション機能の見直しや利用リソースの最適化により、当初見積もりからランニングコストを約15%削減することに成功しています。
先行自治体で発生した問題と解決事例
標準準拠システムへの移行を先行して進めている自治体では、さまざまな問題が発生しています。ここでは主な問題とその解決事例を紹介します。
業務プロセスの変更に伴う混乱
問題事例:C市では、標準準拠システムの導入に伴い、これまでの独自の業務プロセスを変更する必要が生じました。特に窓口業務において、職員がシステムの操作方法に慣れず、処理時間が一時的に増加し、住民サービスに影響が出ました。
解決策:C市では以下の対策を講じて問題を解決しました。
- 移行前の段階から新旧システムの操作比較表を作成し、変更点を可視化
- 実際の業務シナリオに基づく実践的な操作研修を複数回実施
- システム移行後の初期段階では窓口担当者を増員し、サポート体制を強化
- よくある操作の「クイックマニュアル」を作成し、窓口に配置
これらの対策により、約1ヶ月で職員の操作習熟度が向上し、窓口対応時間が移行前の水準に戻りました。
データ移行の不備
問題事例:D町では、現行システムから標準準拠システムへのデータ移行時に、一部の履歴データが正しく移行されず、過去の情報参照が困難になる問題が発生しました。特に税や福祉関連の過去データの一部が欠損し、業務に支障をきたしました。
解決策:D町では以下の対策で問題に対処しました。
- 移行データの詳細な検証ルールを策定し、サンプルデータによる事前検証を徹底
- データ移行の専門チームを編成し、移行ツールのカスタマイズを実施
- 重要データの二重チェック体制を構築
- 一部参照頻度の低い過去データについては、旧システムの読み取り専用環境を別途維持
これらの対策により、重要データの移行精度が向上し、業務に必要なデータの参照が可能になりました。
ベンダーの対応リソース不足
問題事例:E市では、システム移行の計画段階で、ベンダーの対応リソース不足により、当初予定していた移行スケジュールの延期を余儀なくされました。全国的に同時期に移行が進むため、ベンダーの技術者が不足し、細かな要望への対応が滞る状況が発生しました。
解決策:E市では以下の対策を講じました。
- 移行スケジュールを見直し、業務への影響が少ない時期に移行時期を調整
- 要望事項の優先順位を明確化し、必要最小限の要望に絞って対応を依頼
- 自治体側でも標準準拠システムに関する知識を持った職員を育成し、内部対応力を強化
- 近隣自治体と移行時期を調整し、ベンダーのリソース配分を最適化
これらの対策により、限られたベンダーリソースの中でも、重要な要望事項に対応したシステム移行を実現しました。
既存の外部システムとの連携問題
問題事例:F市では、標準準拠システムと既存の独自開発システム(統計分析システムなど)との連携が上手くいかず、データ連携の自動化ができなくなる問題が発生しました。これにより、一部のデータ更新作業が手動での対応となり、業務負荷が増大しました。
解決策:F市では以下の対策で問題に対処しました。
- 標準準拠システムのAPI機能を活用した連携方式への見直し
- 一部の外部システムについては、標準準拠システムからのCSV出力データを活用する方式に変更
- 重要度の低い連携処理は廃止し、業務プロセスを見直し
- 中長期的な視点での外部システムの再構築計画の策定
これらの対策により、重要なシステム連携は維持しつつ、全体としての業務効率を確保することができました。
移行期限に間に合わない場合の対応策
様々な要因により、2025年度末の移行期限に間に合わない可能性がある自治体も存在します。実際に、一部の自治体からは「期限内の完全移行は困難」との声も上がっています。ここでは、移行期限に間に合わない可能性がある場合の対応策を解説します。
期限内移行が困難になる主な要因
- 現行システムの契約期間の問題:現行システムの契約更新時期が2025年度以降に設定されており、途中解約に多額の違約金が発生するケース
- 複雑なシステム構成:独自カスタマイズが多い複雑なシステム構成で、移行作業に長期間を要するケース
- ベンダーの対応能力の限界:全国一斉の移行に伴うベンダーのリソース不足により、対応が遅れるケース
- 財政的な制約:一括での移行費用の確保が困難なケース
- 組織的な準備不足:人員体制や専門知識の不足により、準備が遅れるケース
期限緩和措置の活用
「地方公共団体情報システム標準化基本方針」の見直しにより、難易度が極めて高いシステムについては個別に期限を設定できるよう緩和措置が設けられています。以下の点に留意して対応を検討しましょう。
- 早期の状況把握と判断:移行が困難な見込みの場合は、早い段階で状況を把握し、期限緩和の必要性を判断する
- 根拠資料の整備:期限内移行が困難な理由を客観的なデータで示す資料を整備する
- 代替計画の策定:期限緩和を申請する場合でも、できるだけ早期の移行完了を目指す代替計画を策定する
- 関係機関との協議:都道府県や総務省、デジタル庁等の関係機関と早期に協議し、適切な対応を相談する
部分的・段階的移行の検討
全てのシステムを一度に移行することが困難な場合、部分的・段階的な移行を検討することも有効です。
- 優先度の高いシステムから移行:住民サービスへの影響度や移行の容易さを考慮し、優先度の高いシステムから段階的に移行する
- 最小限の機能からの移行:システム全体ではなく、コア機能から先に移行し、段階的に機能を拡張していく
- 並行運用期間の設定:新旧システムの並行運用期間を設けて、リスクを分散させる
先行事例では、G町が住民基本台帳システム、税システム、国民健康保険システムの3つを優先的に移行し、残りのシステムは段階的に移行するアプローチを採用しました。これにより、限られたリソースの中でも重要システムの期限内移行を実現しています。
緊急時の暫定対応策
万が一、期限までに完全移行が困難な場合の暫定対応策も検討しておくことが重要です。
- 最小限の標準対応:完全な標準準拠ではなくても、データ連携など必要最小限の標準対応を行う
- 代替手段の確保:一部業務については代替的な手段(例:Excelでの管理など)で対応する
- 移行完了までの業務継続計画:移行完了までの業務継続のための具体的な計画を策定する
H市の事例では、期限内の完全移行が困難と判断した一部システムについて、標準準拠システムのAPI連携機能のみを優先的に導入し、内部処理は暫定的に現行システムを継続使用するという段階的アプローチを採用しました。これにより、他自治体とのデータ連携などの最低限の標準化対応を確保しつつ、内部業務の混乱を最小化しています。
人材不足に対する解決アプローチと体制整備
自治体システム標準化を進める上で、多くの自治体が直面しているのが人材不足の問題です。特にIT専門知識を持った人材の確保が課題となっています。
人材不足の実態と課題
自治体における人材不足は以下のような観点で顕在化しています。
- IT専門知識を持つ職員の不足:システム標準化を推進できるIT専門知識を持った職員が少ない
- プロジェクトマネジメント経験者の不足:大規模プロジェクトを管理した経験のある職員が少ない
- 業務とITの両方を理解する人材の不足:業務知識とIT知識の両方を持つ人材が不足している
- ベンダーとの折衝能力を持つ人材の不足:ベンダーと対等に交渉できる知識と経験を持つ人材が少ない
これらの人材不足は、標準化プロジェクトの推進力低下や、ベンダー依存度の高まりなどのリスクにつながります。
内部人材の育成・確保策
内部人材を効果的に育成・確保するためのアプローチとしては、以下のような方法があります。
- 専門研修の実施:標準化に関する専門研修への参加や、eラーニングの活用
- プロジェクトチームの結成:情報システム部門と業務主管部門の職員で構成される横断的なプロジェクトチームの結成
- OJTの推進:標準化プロジェクトへの若手職員の参画によるOJT(実務を通じた訓練)の推進
- 専門職採用の検討:IT専門職の中途採用や任期付職員の採用の検討
- デジタル人材の育成計画:中長期的なデジタル人材育成計画の策定と実行
先行事例では、I市が「デジタル人材育成プログラム」を策定し、標準化プロジェクトを若手職員の育成の場として位置づけることで、プロジェクト推進と人材育成の両立に成功しています。
外部リソースの効果的な活用
内部人材だけでは対応が難しい場合、外部リソースの活用も効果的です。
- ICTアドバイザーの活用:総務省の「地域情報化アドバイザー」制度などを活用した外部専門家の知見の活用
- コンサルティング会社の活用:システム標準化の経験を持つコンサルティング会社の支援を受ける
- 都道府県からの支援:都道府県が提供する技術支援や相談窓口の活用
- 国の支援制度の活用:デジタル庁や総務省が提供する支援制度や相談窓口の活用
- 退職者の活用:IT関連企業OBなど、スキルを持った地域人材の活用
J町の事例では、内部人材の不足を補うため、週1回のアドバイザー訪問制度を導入し、システム標準化の専門家から定期的な助言を受ける体制を構築しました。これにより、限られた内部リソースで効率的にプロジェクトを推進することができました。
自治体間の連携と協力
人材不足に対しては、自治体間の連携と協力も有効なアプローチです。
- 広域連携での推進体制:近隣自治体と共同でプロジェクト推進体制を構築する
- 知見・ノウハウの共有:先行自治体の知見やノウハウを共有する勉強会や情報交換会の開催
- 共同研修の実施:複数自治体による共同研修の実施で効率的な人材育成を図る
- 人材交流:専門知識を持つ職員の自治体間での人材交流や派遣
K県内の複数市町村では、「標準化推進連絡会議」を設立し、定期的な情報共有と共同での課題解決に取り組んでいます。各自治体の担当者が持つ知識やスキルを相互に活用することで、人材不足を補いながらプロジェクトを推進しています。
効果的な体制整備のポイント
限られた人材を有効活用するための体制整備のポイントは以下の通りです。
- トップの関与:首長や幹部の積極的な関与によるプロジェクトの推進力強化
- 明確な役割分担:各担当者の役割と責任の明確化
- 業務とITの融合:情報システム部門と業務部門が緊密に連携できる体制構築
- 知識の共有と蓄積:プロジェクト知識の共有と組織的な蓄積の仕組み作り
- ワークライフバランスへの配慮:過度な負担が特定の職員に集中しないよう配慮
人材不足は多くの自治体に共通する課題ですが、内部育成、外部リソース活用、自治体間連携などの多角的なアプローチと、効果的な体制整備によって克服することが可能です。特に、標準化プロジェクトを単なるシステム更新ではなく、デジタル人材育成の機会として捉える視点が重要です。
2025年以降の自治体システムと標準化の展望

2025年度末を期限とする自治体システム標準化は、日本の行政デジタル化における大きな転換点となります。本セクションでは、標準化完了後の自治体システムの姿と、そこから広がる可能性について展望します。
標準化後の自治体システム運用の変化と対応
標準準拠システムへの移行が完了すると、自治体のシステム運用は大きく変化します。これらの変化に適応するための準備が必要です。
システム運用体制の変化
標準化後のシステム運用体制は、以下のような変化が予想されます。
- クラウドサービス管理への転換:従来のハードウェア管理からクラウドサービス管理へと運用の中心が移行します。オンプレミス環境で行っていたサーバー監視やバックアップなどの作業が不要になる一方、クラウドサービスの利用状況管理や最適化が新たな業務となります。
- マルチベンダー環境への対応:標準化によりベンダーロックインが解消され、複数ベンダーのシステムを組み合わせて利用する環境が一般的になる可能性があります。これにより、ベンダー間の調整や連携管理が新たな運用業務となります。
- 運用業務の効率化:標準化されたシステムでは、運用手順やトラブル対応が全国共通化されるため、マニュアルや事例の共有が進み、運用業務の効率化が期待できます。また、AIを活用した自動運用やリモート監視などの先進技術の導入も容易になります。
- セキュリティ管理の変化:ガバメントクラウドによる一元的なセキュリティ対策が提供される一方、利用部門におけるID管理やアクセス権限管理、エンドポイントセキュリティの重要性が高まります。
運用体制構築のポイント
これらの変化に対応するための運用体制構築のポイントは以下の通りです。
- クラウドサービス管理スキルの習得:クラウドサービスの管理・運用に関するスキルを職員が習得することが重要です。特に、サービスレベルの監視や利用状況の分析、コスト最適化などのスキルが求められます。
- 運用手順の標準化:日常的な運用業務の手順を標準化し、マニュアル化することで、担当者が変わっても一定のサービス品質を維持できる体制を整えます。
- インシデント対応体制の整備:システム障害やセキュリティインシデント発生時の対応手順や連絡体制を事前に整備し、定期的な訓練を実施することが重要です。
- ベンダーマネジメントの強化:複数ベンダーとの関係管理や、SLA(サービスレベル合意)の適切な設定・管理を行うスキルの強化が必要です。
- 利用者サポート体制の構築:標準準拠システムへの移行後も、職員からの問い合わせや操作支援のためのヘルプデスク機能の整備が必要です。
運用コスト管理の重要性
標準化後は、ハードウェア管理コストが削減される一方で、クラウドサービス利用料などの形で運用コストが発生します。これらのコストを適切に管理するためには以下のポイントに注意が必要です。
- 利用状況の定期的な分析:クラウドリソースの利用状況を定期的に分析し、必要に応じて構成の最適化を図ります。
- 長期契約の活用:ベンダーとの長期契約によるコスト削減の可能性を検討します。
- 共同利用の推進:近隣自治体との共同利用によるスケールメリットの活用を検討します。
- ライセンス管理の最適化:必要なライセンス数を適切に管理し、過剰なライセンス取得を避けます。
- 予算計画の定期的な見直し:クラウドサービスの料金体系や利用状況の変化に応じて、定期的に予算計画を見直します。
標準化後の運用体制は、従来のハードウェア管理中心からサービス管理中心へと大きくシフトします。この変化に対応できるよう、標準化の完了と同時に運用体制の再構築に取り組むことが重要です。
行政DXの次なるステップと標準化の発展
自治体システム標準化は、行政DX(デジタル・トランスフォーメーション)の基盤整備の一環であり、これを足がかりとして次なるステップへの展開が期待されています。
標準化を基盤とした行政DXの発展方向
標準化の完了後、行政DXは以下のような方向に発展していくことが予想されます。
- エンドツーエンドのデジタル化:フロントオフィス(住民接点)からバックオフィス(内部業務)まで、行政サービスのエンドツーエンドのデジタル化が進展します。標準化された基幹システムと、マイナポータルなどの住民向けデジタルサービスが連携することで、申請から処理、通知までの全プロセスのデジタル完結が実現します。
- AIやRPAの本格活用:標準化されたデータ形式やプロセスを前提として、AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の本格的な活用が広がります。例えば、申請書の自動チェックや、定型業務の自動処理、AIによる住民問い合わせ対応などの導入が加速します。
- データドリブン行政の推進:標準化によって蓄積される高品質なデータを活用した、証拠に基づく政策立案(EBPM:Evidence-Based Policy Making)が本格化します。行政データの分析により、より効果的・効率的な政策の立案と実行が可能になります。
- オープンデータ・官民連携の加速:標準化されたデータを基盤として、オープンデータの公開や、民間企業との連携による新たなサービス創出が加速します。行政データと民間データの連携による社会課題解決の可能性が広がります。
標準化そのものの発展
現在の標準化対象は基幹業務20業務ですが、今後は標準化の対象範囲自体も拡大していく可能性があります。
- 対象業務の拡大:現在の20業務以外にも、例えば公営住宅管理や公共施設予約などの業務への標準化拡大が考えられます。
- データ標準の深化:データ項目や連携方式の標準化がさらに進み、より高度なデータ連携や分析が可能になります。
- UI/UXの標準化:システムの操作性や画面デザインの標準化が進み、自治体職員の操作習熟度向上や、住民向けサービスの使いやすさ向上につながります。
- 業務プロセスの標準化・最適化:システムだけでなく、業務プロセス自体の標準化・最適化が進み、より効率的な行政運営が実現します。
標準化がもたらす組織文化の変化
システム標準化は、自治体の組織文化にも大きな変化をもたらす可能性があります。
- デジタルファースト思考の定着:「デジタルを前提とした業務設計」という考え方が定着し、新たな行政サービスの企画段階からデジタル化を念頭に置いた検討が行われるようになります。
- アジャイル的アプローチの浸透:標準準拠システムの柔軟性を活かして、小規模・短期間での改善を繰り返す「アジャイル」的なアプローチが行政サービス改善にも浸透します。
- データリテラシーの向上:データを活用した業務改善や政策立案が一般的になり、職員のデータリテラシーが向上します。
- 自治体間の知見共有の活性化:標準化された環境下で、優れた取り組みやノウハウの自治体間での共有が活性化します。
標準化を単なるシステム更新ではなく、行政DXの重要なマイルストーンとして位置づけ、次なるステップへの発展を見据えた取り組みが求められます。
標準化を活かした新たな住民サービスの可能性
自治体システムの標準化は、住民サービスの在り方を大きく変える可能性を秘めています。標準化がもたらす新たな住民サービスの可能性について考察します。
ライフイベント起点のサービス提供
標準化により自治体内外でのデータ連携が進むことで、住民のライフイベント(出生、入学、就職、結婚、引っ越し、退職など)を起点としたサービス提供が可能になります。
- ワンストップサービス:例えば、子どもの出生時に関連する手続き(出生届、児童手当申請、医療費助成申請など)を一度の申請で完結できるようになります。
- プッシュ型サービス:住民の状況を自治体が把握することで、対象となる可能性のあるサービスを自治体側から提案する「プッシュ型」のサービス提供が可能になります。例えば、子どもの年齢に応じた子育て支援サービスの案内などが考えられます。
- 予防型サービス:データ分析により将来的なリスクを予測し、予防的なサービスを提供することが可能になります。例えば、健康データの分析による生活習慣病予防プログラムの提案などが考えられます。
場所や時間を選ばないサービス
標準準拠システムとデジタルチャネルの連携により、場所や時間を選ばない行政サービスの提供が可能になります。
- 完全オンライン手続き:多くの行政手続きがオンラインで完結できるようになり、窓口訪問の必要性が大幅に減少します。
- モバイルアプリケーション:自治体サービスへのアクセスをスマートフォンアプリで提供することで、いつでもどこでもサービスが利用できるようになります。
- チャットボット・AI対応:24時間対応のチャットボットやAIアシスタントにより、夜間や休日でも行政サービスに関する基本的な問い合わせに対応できるようになります。
- バーチャル窓口:ビデオ通話等を活用したバーチャル窓口サービスにより、対面サービスと同等の相談や支援をオンラインで受けられるようになります。
パーソナライズされたサービス
標準化されたデータ基盤を活用することで、住民一人ひとりの状況やニーズに合わせたパーソナライズされたサービス提供が可能になります。
- 個別化された情報提供:住民の属性や過去の利用履歴に基づき、関連性の高い情報を選別して提供できるようになります。
- 利用状況に応じた導線最適化:住民のサービス利用状況に応じて、最適な案内や手続きの導線を提供できるようになります。
- 多言語・アクセシビリティ対応:住民の言語設定や特性に応じて、多言語対応や音声読み上げなどのアクセシビリティ機能を自動的に提供できるようになります。
地域を超えたサービス連携
標準化により自治体間でのデータ連携が容易になることで、地域を超えたサービス連携の可能性が広がります。
- 広域サービスの効率化:複数自治体にまたがる広域サービス(例:ごみ処理、消防、観光振興など)の連携が効率化されます。
- 引っ越し時の手続き簡素化:転出元と転入先の自治体間でのデータ連携により、引っ越し時の手続きが大幅に簡素化されます。
- 災害時の広域支援体制:災害時に被災自治体の住民情報を他自治体でも参照できるようになり、避難者支援などの広域連携が強化されます。
- 自治体間の共同サービス:複数の自治体が共同でオンラインサービスを提供するなど、新たな連携形態が生まれる可能性があります。
これらの新たな住民サービスの実現には、標準化されたシステム基盤の上に、各自治体の創意工夫によるサービス設計が重要です。標準化によって一律のサービスに収斂するのではなく、標準化された基盤をもとに、地域特性や住民ニーズに応じた多様で革新的なサービスが生まれることが期待されます。
デジタル社会における自治体の役割変化と準備
自治体システム標準化の進展とデジタル社会の本格化により、自治体の役割や位置づけも変化していくことが予想されます。未来の自治体像を見据えた準備が必要です。
デジタル時代の自治体の役割変化
デジタル社会の進展に伴い、自治体の役割は以下のように変化していく可能性があります。
- プラットフォーマーとしての役割:自治体はサービスの直接提供者から、行政・民間・市民が協働するためのプラットフォームを提供する役割へとシフトしていきます。標準化されたデータ基盤を活用して、多様な主体によるサービス提供や地域課題解決を促進する役割が重要になります。
- データガバナンスの担い手:地域社会のデータを適切に管理・活用するためのルール作りや、個人情報保護と利活用のバランスを図る「データガバナンス」の担い手としての役割が拡大します。
- デジタルデバイド対策の要:高齢者や障がい者、外国人などデジタル技術の恩恵を受けにくい層への配慮や支援を行う「デジタルデバイド対策」の要としての役割が重要になります。
- 地域の価値創造の触媒:データやデジタル技術を活用した地域の価値創造を促進する触媒としての役割が期待されます。地域独自の魅力や資源をデジタルで増幅し、持続可能な地域発展につなげていくことが求められます。
自治体の組織・人材面での準備
これらの役割変化に対応するためには、組織・人材面での準備が必要です。
- デジタル人材の確保・育成:AI、データ分析、UX(ユーザー体験)設計など、デジタル時代に必要なスキルを持つ人材の確保・育成が急務です。民間からの中途採用、専門職採用の拡大、計画的な内部人材育成などの取り組みが求められます。
- 組織構造の柔軟化:従来の縦割り組織から、課題やプロジェクト単位で柔軟にチームを編成できる組織構造への転換が求められます。デジタル化を前提とした組織再編や、アジャイル的な働き方の導入などが検討課題となります。
- 意思決定プロセスの迅速化:デジタル環境での迅速な変化に対応するため、意思決定プロセスの簡素化・迅速化が必要です。データに基づく意思決定や、小規模な試行錯誤を繰り返すアプローチの導入などが考えられます。
- デジタルリテラシーの底上げ:一部の専門家だけでなく、全職員のデジタルリテラシーを底上げする取り組みが重要です。基礎的なデータ活用能力や、デジタル技術の可能性を理解する力を全庁的に高めることが求められます。
自治体経営の変化への対応
デジタル化の進展は、自治体経営のあり方にも変化をもたらします。
- 投資型IT予算への転換:IT予算を「コスト」から「投資」と捉える発想への転換が必要です。デジタル投資による将来的な業務効率化や住民サービス向上の効果を評価する仕組みの導入が求められます。
- 官民連携の新たな形:標準化された環境下での官民連携の新たな形を模索する必要があります。データ連携を前提とした官民協働や、API連携によるサービス連携など、新たな協業モデルの構築が課題となります。
- 財源確保の新たな視点:デジタル社会における新たな財源確保の視点も必要です。データの利活用による地域経済活性化や、デジタルを活用した行政コスト削減など、持続可能な自治体経営のための新たなアプローチが求められます。
法制度・ガバナンス面での準備
デジタル社会の進展に対応するため、法制度やガバナンス面での準備も重要です。
- データ活用のルール整備:個人情報保護と利活用のバランスを図るためのルール整備や、オープンデータの推進体制構築などが課題となります。
- デジタル時代の住民参加:オンライン住民投票や、SNSを活用した住民意見収集など、デジタル時代の新たな住民参加の形を整備する必要があります。
- デジタル時代の説明責任:AIによる自動処理や、アルゴリズムを用いた行政判断が増える中で、透明性の確保や説明責任の果たし方についても検討が必要です。
- デジタル・レジリエンスの確保:災害やサイバー攻撃などの緊急時にも、行政サービスを継続できるデジタル・レジリエンス(回復力)の確保が重要です。
自治体システム標準化は、単なるシステム更新ではなく、デジタル社会における自治体の役割や在り方を根本から問い直す契機となります。2025年の標準化完了を目指すと同時に、その先の自治体の姿を見据えた準備を進めることが重要です。
まとめ:自治体システム標準化2025への対応ステップ

2025年度末を期限とする自治体システム標準化は、日本の自治体にとって避けて通れない大きな変革です。本セクションでは、これまでの内容を踏まえて、自治体システム標準化への効果的な対応ステップをまとめます。
自治体規模別の標準化対応アクションプラン
自治体の規模によって、標準化への対応方法や優先すべきアクションは異なります。ここでは、規模別のアクションプランを提案します。
大規模自治体(政令指定都市・中核市等)向けアクションプラン
大規模自治体では、システム規模が大きく独自カスタマイズも多いため、標準準拠システムへの移行には慎重な準備が必要です。
- 専門プロジェクトチームの結成
- CIO(最高情報責任者)直轄の横断的な専門プロジェクトチームを結成
- 情報システム部門と各業務部門からの専任メンバーでチームを構成
- 必要に応じて外部専門家の知見を活用
- 現行システムの詳細分析
- 独自カスタマイズの洗い出しと標準仕様との差分分析
- 業務プロセスの見直しも含めた対応方針の検討
- データ移行の複雑性評価と移行計画の策定
- 段階的移行計画の策定
- 業務の重要度や移行の複雑さに応じた段階的な移行計画の策定
- 複数年度にわたる予算計画と人員配置計画の策定
- ベンダーとの入念な協議と調整
- 変更管理の徹底
- 全庁的な意識改革と業務プロセス変更の受け入れ体制構築
- 段階的な職員研修プログラムの実施
- 住民サービスへの影響を最小化するための移行戦略の策定
中規模自治体(一般市)向けアクションプラン
中規模自治体では、限られた人的リソースの中で効率的な標準化対応が求められます。
- 標準化推進体制の確立
- 情報システム部門と主要業務部門の職員による推進チームの設置
- 担当者の役割分担と責任の明確化
- 首長・幹部の理解と支援の確保
- 現行システムと業務の棚卸し
- 現行システムの機能・カスタマイズ状況の整理
- 業務フローの見直しと標準準拠システムへの適応検討
- 移行の難易度評価と優先順位付け
- 効率的な調達・移行計画
- 近隣自治体との情報共有や共同調達の検討
- ベンダー選定における比較評価の徹底
- 費用対効果を考慮した移行計画の策定
- 人材育成と知識移転
- 標準化プロジェクトを通じた内部人材の育成
- 外部研修やセミナーの積極的活用
- 移行ノウハウの組織内共有と蓄積
小規模自治体(町村)向けアクションプラン
小規模自治体では、限られたリソースを最大限に活用した効率的な標準化対応が重要です。
- 外部支援の積極活用
- 都道府県の支援制度や国の補助金の積極的活用
- 外部アドバイザーやコンサルタントの活用検討
- 標準化に実績のあるベンダーのノウハウ活用
- 近隣自治体との連携強化
- 近隣自治体との情報共有や共同勉強会の実施
- 共同調達や自治体クラウドの検討
- 成功事例・失敗事例の共有と活用
- シンプルな移行アプローチ
- カスタマイズを最小限に抑えた標準機能の最大活用
- パッケージベースの一括移行の検討
- データ移行の範囲最適化による効率化
- 重点的な職員育成
- 少数精鋭のキーパーソン育成に注力
- オンライン研修などの効率的な学習手段の活用
- ベンダーによる手厚いサポートの確保
自治体の規模にかかわらず、標準化対応は「単なるシステム更新」ではなく「行政のデジタル変革」として位置づけ、全庁的な取り組みとして推進することが成功の鍵となります。
2025年までの時間軸に沿った段階的対応
2025年度末の期限に向けて、時間軸に沿った段階的な対応が重要です。ここでは、残り時間を考慮した現実的なスケジュールを提案します。
2023年度(準備期)
標準化対応の土台作りを行う重要な時期です。
- 体制整備:標準化対応の推進体制を確立し、責任者・担当者を明確化
- 現状分析:現行システムの機能・カスタマイズ状況の棚卸しと標準仕様との差分分析
- 移行計画策定:全体移行計画の策定と予算計画への反映
- 情報収集:標準仕様書や先行事例の情報収集、研修参加による知識習得
- 庁内合意形成:首長・議会・各部門の理解と協力を得るための説明と調整
2024年度(移行準備期)
具体的な移行準備を進める時期です。
- 調達手続き:RFP(提案依頼書)の作成、ベンダー選定、契約締結
- データ移行準備:データクレンジング、移行ルールの策定、テスト移行の実施
- 業務プロセス見直し:標準準拠システムに合わせた業務プロセスの見直しと調整
- 研修計画策定:職員研修プログラムの策定と準備
- 移行リスク対策:想定されるリスクの洗い出しと対策の準備
2025年度(移行実施期)
実際のシステム移行を実施し、安定稼働を実現する時期です。
- 環境構築:標準準拠システムの構築と設定
- データ移行:本番データの移行と検証
- 職員研修:新システムの操作研修と業務変更点の周知
- 本番稼働:標準準拠システムの本番稼働と初期運用サポート
- 安定稼働確認:稼働後の運用状況確認と必要な調整
優先順位付けのポイント
全てのシステムを同時に移行することが難しい場合は、以下のポイントで優先順位を決定することが有効です。
- 現行システムの契約更新時期:契約更新のタイミングに合わせた移行が効率的
- 住民サービスへの影響度:住民サービスへの影響が少ないシステムから移行
- システム間の連携関係:基盤となるシステム(住民基本台帳など)を優先的に移行
- 移行の複雑さ:比較的シンプルなシステムから着手し、成功体験を積む
「時間がない」と焦るよりも、「限られた時間で何を優先すべきか」を冷静に判断し、計画的に進めることが重要です。2025年度末の期限までに全てを完璧に移行することにこだわりすぎず、重要性の高いシステムを優先的に対応するという現実的なアプローチも検討すべきでしょう。
標準化を成功させるための重要ポイント
これまでの解説を踏まえ、自治体システム標準化を成功させるための重要ポイントを以下にまとめます。
組織・体制面のポイント
- トップのコミットメント:首長・副首長によるリーダーシップと明確な方針表明が不可欠です。トップが「デジタル変革の重要施策」として位置づけ、全庁的な取り組みとして推進することで、各部門の協力を得やすくなります。
- 横断的な推進体制:情報システム部門だけでなく、各業務主管部門が主体的に参画する横断的な推進体制が必要です。特に、現場業務に精通した職員の参画が、実効性のある移行計画の策定に不可欠です。
- 人材確保・育成:標準化推進に必要な知識・スキルを持った人材の確保・育成が重要です。外部専門家の活用と並行して、内部人材の計画的な育成も進めるべきです。
計画・進め方のポイント
- 段階的アプローチ:全てを一度に行うのではなく、段階的な計画と実施が効果的です。「小さく始めて、成功体験を積み重ねる」アプローチが、リスクを最小化しつつモチベーションを維持する鍵となります。
- 業務プロセス見直しの徹底:単に現行業務を新システムに移行するのではなく、この機会に業務プロセス自体の見直しと最適化を行うことが重要です。「標準化=標準に合わせた業務改革」という認識を持つことが成功の鍵です。
- 住民サービス視点の重視:システム内部の効率化だけでなく、「住民にとって何が良くなるか」という視点を常に持ち、住民サービスの向上につながる移行を意識することが重要です。
技術・運用面のポイント
- データ移行の綿密な計画:データの正確な移行は標準化成功の基盤です。データクレンジングから移行ルールの策定、検証まで、綿密な計画と十分な検証時間の確保が必要です。
- ベンダーとの適切な関係構築:ベンダーを単なる「発注先」ではなく、標準化を共に実現する「パートナー」と位置づけ、適切なコミュニケーションと協力関係を構築することが重要です。
- 標準機能の最大活用:独自カスタマイズを最小限に抑え、標準機能を最大限活用する方針を明確にすることが、持続可能なシステム運用につながります。
財政・コスト面のポイント
- 適切な予算確保:標準化に必要な予算を適切に確保し、複数年度にわたる計画的な執行が重要です。初期投資の適切な見積りと、長期的な費用対効果の評価が必要です。
- 補助金・支援制度の活用:国や都道府県の補助金や支援制度を最大限活用し、自治体の財政負担を軽減する工夫が必要です。
- ランニングコストの見通し:初期導入費用だけでなく、移行後のランニングコストについても適切な見通しを立て、持続可能な運用計画を策定することが重要です。
これらのポイントは相互に関連しており、バランスよく取り組むことが標準化成功の鍵となります。特に「技術的な移行」と「業務改革」の両面を並行して進めることが、標準化の真の効果を引き出すために重要です。
継続的な情報収集と活用方法
自治体システム標準化は進行中の取り組みであり、標準仕様や支援策などの情報が日々更新されています。最新情報を継続的に収集し、活用することが重要です。
主要な情報源
標準化に関する情報収集のための主要な情報源は以下の通りです。
- デジタル庁Webサイト:標準化の全体方針や最新情報が公開されています。特に「自治体DX」「標準化・共通化」のセクションを定期的にチェックすることをお勧めします。
- 総務省Webサイト:自治体情報システムの標準化・共通化に関する詳細情報や支援策が公開されています。
- 各府省の標準仕様書:各業務の所管府省が公開している標準仕様書は、随時更新される可能性があるため、定期的に確認が必要です。
- 地方公共団体情報システム機構(J-LIS):標準化に関する技術的な情報や、研修・セミナー情報が提供されています。
- 都道府県の支援窓口:多くの都道府県では、域内市町村向けの標準化支援窓口を設置しています。特に小規模自治体にとって貴重な情報源となります。
効果的な情報収集・活用のポイント
膨大な情報の中から必要なものを効率的に収集し、活用するためのポイントです。
- 情報収集の役割分担:担当者を決めて定期的に情報収集を行い、庁内で共有する仕組みを構築しましょう。
- 研修・セミナーへの積極参加:デジタル庁や総務省、J-LISなどが開催する研修・セミナーに積極的に参加し、最新動向や先行事例を学びましょう。
- 自治体間ネットワークの活用:都道府県や地域ブロック単位での自治体間ネットワークを活用し、情報交換や課題共有を行いましょう。
- ベンダーからの情報収集:システムベンダーも貴重な情報源です。定期的な情報交換の場を設け、標準化への対応状況や最新動向を確認しましょう。
- 情報の整理と共有:収集した情報を整理し、庁内で共有するナレッジベースを構築しましょう。特に、FAQや解釈事例などは体系的に整理することが重要です。
最新情報に基づく計画の見直し
収集した最新情報に基づいて、定期的に移行計画を見直すことも重要です。
- 標準仕様書の更新確認:標準仕様書の更新があった場合、その影響を評価し、必要に応じて移行計画を調整します。
- 支援策の活用検討:新たな補助金や支援策が発表された場合、積極的に活用を検討します。
- 先行事例からの学習:先行自治体の成功事例や失敗事例から学び、自らの計画に反映します。
- 国の方針変更への対応:期限緩和などの国の方針変更があった場合、適切に対応します。
標準化完了後の継続的改善
標準化は2025年度末の移行完了がゴールではなく、その後も継続的な改善が必要です。
- 運用状況のモニタリング:標準準拠システムの運用状況を継続的にモニタリングし、課題を把握します。
- 利用者フィードバックの収集:職員や住民からのフィードバックを収集し、改善につなげます。
- 標準仕様の進化への対応:標準仕様は今後も進化していくと考えられます。その動向を把握し、適切に対応することが重要です。
- 新たなデジタル技術の導入検討:AI、RPA、データ分析など、標準準拠システムと連携できる新たなデジタル技術の導入を検討し、行政サービスの更なる向上を目指します。
自治体システム標準化は、2025年の移行完了がゴールではなく、デジタル社会における持続的な行政サービス提供の出発点です。標準化の取り組みを通じて培ったデジタル対応力を基盤に、今後も変化し続ける住民ニーズと技術環境に適応した自治体運営を実現していくことが重要です。
自治体システム標準化2025のポイントまとめ

- 自治体システム標準化とは、全国1,700以上の自治体の基幹業務システムを統一・標準化し、2025年度末までにガバメントクラウド上の標準準拠システムへ移行する国の施策です。
- 標準化の対象は住民基本台帳、税、福祉など20の基幹業務システムであり、これらを標準仕様に基づいた形で導入することが求められています。
- 標準化によるメリットには、コスト削減、業務効率の向上、住民サービスの向上、ベンダーロックインの解消などがあります。
- 標準化の課題としては、初期導入コストの発生、想定外のランニングコスト増加の可能性、人材不足、業務プロセス変更への対応などがあります。
- 標準化への対応は自治体の規模に応じた戦略が必要であり、大規模自治体は段階的移行計画、中規模自治体は効率的な調達・移行計画、小規模自治体は外部支援の活用などが有効です。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、AIの特性上、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。本記事の内容に関するご質問、ご意見、または訂正すべき点がございましたら、お手数ですがお問い合わせいただけますと幸いです。