事業促進PPPとは?官民の技術者が一体で進める仕組み

東日本大震災の後、三陸沿岸道路などの復興道路事業は、異例の速さで進められました。総延長およそ380キロメートルに及ぶ道路を、短期間で整備する——通常の体制では到底追いつきません。そこで導入されたのが事業促進PPPです。官民の技術者が一体となって、調査設計から施工管理までを担う仕組みで、現在は各地の大規模事業にも広がっています。本記事では、事業促進PPPとは何か、通常の発注との違い、担う業務、参入の考え方を解説します。
この記事のポイント
- 官民の技術者が一体となって事業を促進するマネジメント方式
- 東日本大震災の復興道路事業で導入され、各地の大規模事業に拡大
- 国土交通省が直轄事業向けのガイドラインを定めている
事業促進PPPとは
事業促進PPPとは、大規模災害の復旧・復興事業や大規模事業などにおいて、官民の技術者が持つ多様な知見と経験を融合させながら、事業を促進するマネジメント方式です。
担う業務は幅広く、おおむね次のような内容が含まれます。
- 事業全体計画の整理——事業をどう進めるかの組み立て
- 測量・調査・設計業務等の指導・調整——複数の業務の進行を管理する
- 地元および関係機関等との協議——用地、道路、河川などの調整
- 事業管理——工程、予算、リスクの把握
- 施工管理——工事の進捗と品質の確認
特徴的なのは、調査設計の段階から施工管理まで、一貫して関わる点です。通常は業務ごとに分けて発注されるものを、まとめてマネジメントします。
国土交通省は「国土交通省直轄の事業促進PPPに関するガイドライン」を定め、運用の考え方を示しています。
復興事業から始まった
この仕組みが生まれた経緯を押さえておくと、性格が理解しやすくなります。
2011年3月の東北地方太平洋沖地震の後、被災地の復興を支える道路網の整備が急務となりました。総延長約380キロメートルに及ぶ復興道路等の事業を、円滑かつ迅速に進める必要があったのです。
しかし、事業の量に対して、発注者側の技術者が圧倒的に足りません。通常の進め方では、何年かかるか分からない状況でした。
そこで東北地方整備局が2012年度から導入したのが、事業促進PPPです。民間の技術者が現地に常駐し、直轄の職員とともに事業を進める体制がつくられました。
この取組みは早期の供用という成果をあげ、その後、各地の高規格幹線道路などの大規模事業にも導入されています。災害時の体制については災害協定とはもご覧ください。
常駐して専任で担う
事業促進PPPの実施体制で特徴的なのが、現地に常駐し、専任で担当するという点です。
通常の業務委託であれば、受託者は自社の事務所で作業し、必要に応じて発注者を訪れます。しかし事業促進PPPでは、発注者の事務所などに席を置き、日常的に職員と同じ場で働きます。
この形をとる理由は明確です。事業の進行には、日々の判断と調整が必要だからです。地元からの要望、関係機関との協議、設計業務からの照会——こうした事柄は、離れた場所からでは対応しきれません。
「官民の技術者が一体となって」という表現は、この体制を指しています。直轄職員を柱としつつ、民間の技術者がその隣で動く——という関係です。
受託する側から見れば、技術者を長期間、特定の現場に張り付けることになります。相応の体力と人材を持つ企業でなければ担えません。
通常の発注との違い
事業促進PPPが、通常の業務発注とどう違うのかを整理します。
| 項目 | 通常の業務委託 | 事業促進PPP |
|---|---|---|
| 対象範囲 | 測量、設計など業務ごと | 調査設計から施工管理まで一貫 |
| 働く場所 | 受託者の事務所が中心 | 現地に常駐 |
| 役割 | 成果物を作る | 事業全体を促進する |
| 期間 | 業務ごとに完結 | 事業の進行に合わせて長期 |
最も大きな違いは、成果物を作るのではなく、事業を進めるという点にあります。設計図書のような目に見える成果ではなく、事業が滞りなく進むこと自体が求められる役割です。
そのため、関係者との調整力が問われます。地元の住民、用地の権利者、道路や河川の管理者、鉄道事業者——多くの相手と話を詰めていく必要があります。
用地の取得や関係機関協議は、事業の進行を左右する要素です。これらが滞れば、工事そのものが止まります。詳しくは工事の一時中止とはをご覧ください。
CM方式との違い
発注者を技術面で支えるという点では、CM方式と共通します。違いはどこにあるのでしょうか。
CM方式は、技術的な中立性を保ちながら発注者の側に立ち、設計・発注・施工の各段階でマネジメントを行う方式です。自治体の施設整備などで活用されています。
事業促進PPPは、国土交通省の直轄事業を対象とし、大規模事業や災害復旧という場面に特化しています。また、現地常駐・専任という体制が前提である点も特徴です。
もっとも、両者は排他的なものではありません。発注者側の体制を補強するという目的は共通しており、事業の性格と発注機関に応じて使い分けられます。
詳しくはCM方式とはをご覧ください。
参入を考えるなら
事業促進PPPの業務を受託するには、何が必要でしょうか。
第一に、幅広い分野の技術者です。道路、橋梁、トンネル、用地、施工管理——事業の全体を見るには、それぞれの分野に通じた人材が要ります。一人で全部をこなせるわけではないため、チームとして構成します。
第二に、長期間の配置に耐える体制です。事業は数年にわたります。その間、技術者を現地に置き続けなければなりません。他の業務との掛け持ちは困難です。
第三に、調整の経験です。技術的な正しさだけでは事業は進みません。地元の理解を得る、関係機関と折り合いをつける——こうした仕事の経験が物を言います。
これらの要件から、担い手は建設コンサルタントが中心になります。単独では難しい場合、複数社が共同で受託する形もとられます。登録制度については建設コンサルタント登録制度とはをご覧ください。
用地と関係機関協議という壁
事業促進PPPが担う業務のなかで、とりわけ重いのが用地の取得と関係機関との協議です。
道路を一本通すには、その線上にあるすべての土地を取得しなければなりません。地権者は一人ではなく、何十人、何百人という単位になります。相続が済んでいない土地、所在の分からない所有者——事情はさまざまです。
関係機関協議も同様です。既存の道路と交差すればその管理者、河川を渡れば河川管理者、鉄道をまたげば鉄道事業者。それぞれと条件を詰める必要があります。
これらは技術の問題というより、段取りと粘りの問題です。一件ずつ積み上げるしかなく、まとめて処理する方法がありません。だからこそ人手が要り、発注者の体制が追いつかなくなります。
用地が未取得のまま工事を発注すれば、着工できずに工期だけが過ぎます。事業促進PPPが調査設計の段階から入るのは、こうした事態を防ぐためでもあります。詳しくは用地取得と損失補償とはをご覧ください。
複数の業務をまたぐマネジメント
大規模事業では、同時に多くの業務が走ります。測量、地質調査、道路設計、橋梁設計、用地調査——それぞれ別の事業者が受託しています。
問題は、これらが互いに影響し合うことです。地質調査の結果が出なければ橋梁の設計は固まりません。道路の線形が変われば用地の範囲も変わります。
通常であれば、発注者の担当者がそれぞれの業務を管理し、必要に応じて調整します。しかし業務の数が増えれば、全体を把握しきれなくなります。
事業促進PPPは、この業務間の調整を担います。どの業務がどこまで進んでいるか、どこで待ちが生じているか、優先すべきはどれか——全体を見渡して整理します。
設計業務の進め方については管理技術者とは、品質の確保は照査とはをご覧ください。
中立性と利益相反
民間の事業者が発注者側に立つ仕組みには、避けて通れない論点があります。利益相反です。
事業促進PPPを担う事業者が、同じ事業の設計業務や工事にも関わるとすれば、公正さが疑われます。自社に有利な判断をするのではないか、という懸念が生じるからです。
そのため、ガイドラインでは同一事業における他の業務への参加について制限が設けられるのが通常です。どの範囲まで認められるかは、事業ごとの条件によります。
参入を検討する事業者としては、この点の確認が欠かせません。事業促進PPPを受託することで、その事業の設計や工事に参加できなくなる可能性があるためです。
どちらを狙うのかという経営判断が必要になります。公募の条件を読み、制約の範囲を把握したうえで検討してください。
担い手確保という文脈
事業促進PPPが広がった背景には、建設業と行政の双方が抱える人材の問題があります。
公共事業の予算が長く抑制されてきた時期に、自治体も国の出先機関も技術職員を減らしてきました。一方で、災害は頻発し、インフラの老朽化も進んでいます。やるべき仕事は減っていません。
限られた職員で事業を進めるには、外部の力を組み込むほかありません。事業促進PPPも、CM方式も、発注者支援業務も、この構造から生まれた仕組みです。
民間の側にとっては、技術者の活躍の場が広がるという意味があります。設計や施工だけでなく、事業のマネジメントという領域で経験を積めます。
ただし、民間も人手不足です。長期間の常駐を求められる業務に人を出せるかは、企業の体力次第になります。業界全体の担い手確保の取組みについては担い手三法とはをご覧ください。
成果をどう測るか
事業促進PPPの難しさのひとつが、成果の測りにくさです。
設計業務であれば、成果物として図面が納品されます。工事であれば、構造物ができあがります。しかし事業マネジメントの成果は、形として残りません。
測るとすれば、事業がどれだけ早く進んだかです。用地の取得率、設計業務の完了状況、工事の着手時期——こうした指標で進捗を見ます。
ただし、進まなかった原因が受託者にあるとは限りません。地権者との交渉が難航した、想定外の遺跡が出た、災害が重なった——外部の要因は数多くあります。
そのため、業務の評価では、結果だけでなくどのような取組みを行ったかも見られます。記録を残し、判断の経緯を説明できるようにしておくことが重要です。業務の評価については業務成績評定とはをご覧ください。
目に見えにくい仕事であるからこそ、やったことを記録に残す姿勢が、次の受注にもつながります。
同じ事業の設計や工事にも参加できますか
制限が設けられるのが通常です。発注者側に立つ立場で同じ事業の設計や工事に関われば、利益相反が疑われるためです。認められる範囲は事業ごとの条件によるため、公募の条件を確認してください。
どのような企業が受託していますか
幅広い分野の技術者を抱える建設コンサルタントが中心です。長期の現地常駐に耐える体制と、関係機関や地元との調整の経験が求められるため、単独では難しい場合に複数社が共同で受託する形もとられます。
よくある質問
どんな事業が対象ですか
大規模災害の復旧・復興事業や大規模事業などが対象です。東日本大震災後の復興道路事業で導入され、その後、各地の高規格幹線道路等の大規模事業にも広がっています。
現地に常駐する必要がありますか
現地に常駐し専任で事業マネジメントを担当するのが前提です。日々の判断と調整が必要な業務であり、離れた場所からでは対応しきれないためです。
CM方式とは何が違いますか
発注者を技術面で支える点は共通しますが、事業促進PPPは国土交通省の直轄事業における大規模事業や災害復旧に特化し、現地常駐・専任という体制を前提とする点が異なります。
まとめ
事業促進PPPとは、大規模災害の復旧・復興事業や大規模事業において、官民の技術者が持つ多様な知見と経験を融合させながら事業を促進するマネジメント方式です。事業全体計画の整理、測量・調査・設計業務等の指導・調整、地元および関係機関等との協議、事業管理、施工管理などを担います。東日本大震災後、総延長約380キロメートルに及ぶ復興道路事業を円滑かつ迅速に進めるため、東北地方整備局が2012年度から導入したのが最初で、現在は各地の大規模事業にも広がっています。現地に常駐し専任で担当する体制が前提であり、受託するには幅広い分野の技術者、長期配置に耐える体制、関係者との調整の経験が求められます。国土交通省がガイドラインを定めており、運用の考え方が示されています。関連してCM方式とは、建設コンサルタント登録制度とはもあわせてご覧ください。
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※本記事は公開時点の情報をもとに作成しています。運用の詳細はガイドラインの改定により変わることがあります。具体的な内容は国土交通省の事業促進PPPに関するガイドライン等の一次情報をご確認ください。