リスクアセスメントとは?建設現場での進め方を解説

労働災害は、起きてから対策を打つのでは遅すぎます。事故が起きた後に「次から気をつけよう」と確認する——長らくそうした進め方が続いてきましたが、それでは最初の犠牲を防げません。そこで重視されるようになったのがリスクアセスメントです。作業に潜む危険をあらかじめ洗い出し、その大きさを見積もって、優先度の高いものから対策を打つ。労働安全衛生法にも位置づけられた手法です。本記事では、リスクアセスメントとは何か、建設現場での進め方、記録のしかたを解説します。
この記事のポイント
- 危険性・有害性を特定し、リスクを見積もり、低減措置の優先度を決める手法
- 労働安全衛生法第28条の2に基づき、建設業では努力義務とされている
- 作業計画を立てる段階で実施することで、事前に手を打てる
リスクアセスメントとは
リスクアセスメントとは、職場に存在する危険性または有害性を特定し、それによって生じるリスクの大きさを見積もったうえで、低減措置の優先度を決定する一連のプロセスです。
根拠は労働安全衛生法第28条の2にあります。建設業の事業者は、危険性または有害性等の調査を実施し、その結果に基づいて検討した災害防止対策により、労働災害を未然に防ぐことが努力義務とされています。
従来の安全管理との違いは、事前性と優先順位にあります。事故が起きてから対策を考えるのではなく、起きる前に洗い出す。そして、すべてに同時に手を打つことはできないので、リスクの大きいものから順に対処する——という考え方です。
現場には、危険が無数にあります。すべてを同じ重みで扱えば、本当に危ないものへの対応が薄まります。数値化して優先度をつけることには、そうした意味があります。
実施の手順
リスクアセスメントは、次の流れで進めます。
- 危険性・有害性の特定——作業のなかにどんな危険が潜んでいるかを洗い出す
- リスクの見積り——災害が起きる可能性と、起きたときの重篤度を評価する
- 優先度の設定——見積りの結果から、対応の順序を決める
- 低減措置の検討・実施——優先度の高いものから対策を打つ
- 記録——実施した内容を記録し、次に活かす
出発点となるのが、危険性・有害性の特定です。作業を細かく分解し、それぞれの工程で「何が起こり得るか」を考えます。重機に接触する、高所から墜落する、土砂が崩れる、有機溶剤を吸い込む——具体的に挙げていきます。
ここで大切なのは、現場を知っている人が参加することです。机上で考えるだけでは、実際の危険は見えません。作業をする職長や技能者の目が欠かせません。
リスクをどう見積もるか
洗い出した危険について、リスクの大きさを評価します。一般的なのは、可能性と重篤度の2つの軸で考える方法です。
| 軸 | 見るもの | 評価の例 |
|---|---|---|
| 可能性 | その災害が起こる確率 | 極めて高い/比較的高い/可能性がある/ほとんどない |
| 重篤度 | 起きた場合の被害の大きさ | 致命的/重大/中程度/軽微 |
それぞれを点数化し、掛け合わせるか足し合わせることで、リスクの大きさを数値として表します。その値に応じて、優先度が決まります。
注意したいのは、可能性が低くても重篤度が高いものを軽視しないことです。めったに起きなくても、起きれば死につながる災害があります。墜落、重機との接触、土砂崩壊——いずれも頻度は高くありませんが、結果は取り返しがつきません。
逆に、頻繁に起きるが軽微なもの——工具で指を挟む、つまずくといった災害も、放置すべきではありません。件数が多ければ、いずれ重いものも起こります。
低減措置には優先順位がある
リスクを減らす方法にも、望ましい順序があります。
- 1. 危険そのものをなくす——工法を変える、危険な作業を不要にする
- 2. 工学的な対策——手すりを設ける、覆いをする、機械を隔離する
- 3. 管理的な対策——立入禁止にする、手順を定める、教育する
- 4. 保護具の使用——安全帯、保護メガネ、防じんマスクなど
上に行くほど効果が確実で、下に行くほど人の行動に依存します。保護具は最後の手段であって、最初に考えるべきものではありません。
たとえば、高所作業の墜落リスクに対して、「安全帯を使わせる」という対策だけで済ませるのは望ましくありません。そもそも高所で作業しなくて済む工法はないか、手すりや足場で落ちない状態をつくれないか——上位の対策から検討すべきです。
もっとも、現実には上位の対策がとれない場面もあります。そのときは、下位の対策を組み合わせて厚みを持たせます。
いつ実施するか
実施のタイミングは、効果を左右します。
最も有効なのは、作業計画を立てる段階です。工法や手順が決まる前であれば、危険そのものをなくす選択肢がとれます。現場が動き出してからでは、変えられる範囲が限られます。
安衛法上のリスクアセスメントは努力義務とされており、作業計画時などに十分な時間をかけて実施することが求められます。時間をかけるというのが要点で、形式的に埋めるだけでは意味がありません。
加えて、次のような場面でも実施します。
- 新しい工法や機械を導入するとき
- 作業手順を変更するとき
- 現場の状況が大きく変わったとき
- 労働災害やヒヤリハットが発生したとき
施工計画を作成する際に組み込んでおくと、自然に実施される流れになります。詳しくは施工計画書とはをご覧ください。
建設業に特有の難しさ
建設現場でのリスクアセスメントには、製造業などとは違う難しさがあります。
第一に、現場が毎回変わることです。工場であれば同じ設備で同じ作業を繰り返しますが、建設現場は一つひとつが違います。前の現場の結果をそのまま使えません。
第二に、状況が刻々と変化することです。工事が進めば、地形も構造物も変わります。昨日は安全だった場所が、今日は危険になることがあります。
第三に、複数の会社が混在することです。自社の作業だけを見ていても、他社との干渉から生じる危険は見えません。現場全体を見渡す視点が要ります。この点は、元請による安全衛生管理体制と結びつきます。詳しくは統括安全衛生責任者とはをご覧ください。
これらの難しさがあるからこそ、現場ごとに、そして工程の節目ごとに実施する意味があります。
記録の残し方
リスクアセスメントの結果は、記録として残します。様式に法定のものはありませんが、記載すべき要素は共通しています。
- 対象とした作業の名称と工程
- 特定した危険性・有害性の内容
- リスクの見積り結果(可能性・重篤度・評価値)
- 検討した低減措置と、実施の有無
- 措置を実施した後の残留リスク
- 実施年月日、参加者
とくに意味があるのが、措置後の残留リスクです。対策を打っても、リスクがゼロになるとは限りません。どの程度まで下がったのか、何が残っているのかを明示しておけば、現場で注意すべき点がはっきりします。
この残留リスクは、作業員に伝えるべき情報でもあります。新規入場時の教育や朝礼で共有すれば、教育の内容がその現場に即したものになります。詳しくは新規入場者教育とはをご覧ください。
危険予知活動との関係
建設現場では、作業前に危険を出し合う活動が日常的に行われています。リスクアセスメントとどう違うのでしょうか。
大きな違いは、時間軸と対象範囲です。リスクアセスメントは、作業計画の段階で、工程全体を対象に、時間をかけて実施します。一方、作業前の危険予知は、その日その作業に絞って、短時間で行います。
両者は競合するものではなく、補い合う関係です。計画段階で大きな危険への対策を打ち、日々の活動でその日の具体的な状況に対応する。二段構えになっているわけです。
効果的なのは、リスクアセスメントの結果を日々の活動に引き継ぐことです。「この工程では、ここに残留リスクがある」と分かっていれば、その日の話し合いも焦点が定まります。
逆に、日々の活動で気づいた危険を、リスクアセスメントの見直しに反映することも有効です。現場からの情報が、計画の精度を上げます。
形式的になりやすい落とし穴
リスクアセスメントは、手順が定型化されているぶん、形だけになりやすい面があります。よくある落とし穴を挙げます。
ひとつが、前の現場の様式を使い回すことです。工種が同じなら似た内容になりますが、現場の条件は違います。そのまま流用すれば、その現場に固有の危険が抜け落ちます。
もうひとつが、対策欄がすべて「保護具の着用」になることです。考えるのが簡単で、書きやすいためです。しかし前述のとおり、保護具は最後の手段です。上位の対策を検討した形跡がなければ、アセスメントとして不十分です。
そして、実施したきり見返さないことです。作って終わりでは、計画書と同じ運命をたどります。工程が変わったとき、事故やヒヤリハットがあったときに見直す習慣が要ります。
防ぐには、現場の人を巻き込むことです。書類を作る担当者だけで完結させず、実際に作業する人の声を入れる。そうすれば、机上では出てこない危険が挙がってきます。
公共工事での扱い
公共工事において、リスクアセスメントはどのように関わるのでしょうか。
まず、施工計画書です。安全管理に関する事項として、危険の洗い出しと対策を示すことが求められる場合があります。計画段階でリスクアセスメントを行っていれば、その内容をそのまま記載できます。
次に、工事成績評定です。安全管理の取組みは評価の対象であり、計画的な危険の把握と対策は、積極的な取組みとして評価され得ます。詳しくは工事成績評定とはをご覧ください。
また、総合評価落札方式では、施工計画の工夫が評価されます。安全確保の具体的な方策を提案する際、リスクアセスメントに基づく検討は説得力を持ちます。評価値の算定は加算方式・除算方式とはをご覧ください。
ただし、評価のために行うものではありません。現場で働く人が無事に家へ帰ることが目的です。結果として評価にもつながる、という順序を取り違えないようにしたいものです。
ヒヤリハットを活かす
リスクアセスメントの精度を上げる材料として、現場で最も価値があるのがヒヤリハットです。
けがには至らなかったが、危ないと感じた出来事。足場の隙間に足を踏み外しかけた、上から工具が落ちてきた、バックしてきた重機に気づかなかった——こうした経験は、実際に災害が起こり得る箇所を教えてくれます。
ただし、報告されなければ活かせません。「注意不足を責められる」と思えば、誰も言い出しません。報告した人を評価するという姿勢が、情報を集める前提になります。
集まった情報は、リスクアセスメントの見直しに反映します。想定していなかった危険が見つかれば追加し、見積りが甘かったものは評価を上げる。こうして精度が上がっていきます。
他の現場での事例を共有することも有効です。自社で起きていなくても、同じ工種で起きた災害は、自分たちにも起こり得ます。
小規模な現場でどう進めるか
大規模工事であれば、専任の安全担当者を置いて体系的に進められます。しかし、小規模な現場ではそうもいきません。
限られた体制で進めるには、絞り込むことが現実的です。すべての作業を網羅しようとせず、その工事で最も危険な作業を2つ3つ選び、そこを掘り下げます。
選ぶ基準は、重篤度です。起きれば命に関わる作業——高所、重機、掘削、電気——を優先します。頻度の高い軽微な災害より、まずここを押さえます。
また、社内で蓄積を作ることも有効です。工種ごとに過去の検討結果を残しておけば、次の現場では現場固有の条件を上乗せするだけで済みます。ゼロから考えるより、はるかに負担が軽くなります。
完璧を目指して何もしないより、絞ってでも実施するほうが、現場は安全になります。
よくある質問
建設業では義務ですか
労働安全衛生法第28条の2に基づく調査は、建設業の事業者にとって努力義務とされています。ただし、化学物質など個別の規定により実施が義務づけられる場面もあります。
誰が実施しますか
事業者の責任で行いますが、実務では現場を知る職長や技能者の参加が欠かせません。机上の検討だけでは実際の危険は見えないためです。
保護具だけの対策では不十分ですか
保護具は最後の手段と位置づけられます。危険そのものをなくす、工学的に防ぐ、管理的に規制する——上位の対策から検討し、それでも残るリスクに保護具で備えるのが原則です。
まとめ
リスクアセスメントとは、職場の危険性・有害性を特定し、リスクの大きさを見積もったうえで、低減措置の優先度を決定する一連のプロセスです。労働安全衛生法第28条の2に基づき、建設業の事業者には努力義務とされています。手順は、危険性・有害性の特定、リスクの見積り、優先度の設定、低減措置の検討・実施、記録という流れです。見積りは可能性と重篤度の2軸で行い、めったに起きなくても致命的な災害を軽視しないことが重要です。低減措置には優先順位があり、危険そのものをなくす、工学的対策、管理的対策、保護具の使用という順で検討します。実施は作業計画を立てる段階が最も有効で、現場が動き出す前なら工法そのものを変える選択肢がとれます。建設現場は毎回条件が変わるため、現場ごと・工程の節目ごとの実施が要点です。関連して統括安全衛生責任者とは、施工計画書とはもあわせてご覧ください。
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※本記事は公開時点の情報をもとに作成しています。実施方法や義務の範囲は法令および指針の定めによります。具体的な内容は厚生労働省の一次情報をご確認ください。