入札のダンピングとは?弊害と最低制限価格による対策を解説

公共工事や委託の入札で、他社を大きく下回る極端な安値で受注しようとする動きを「ダンピング」と呼びます。安く発注できるなら発注者にとって得ではないか、と思われるかもしれませんが、実際には工事の手抜きや下請けへのしわ寄せ、働く人の労働条件の悪化など、さまざまな弊害を招きます。そのため国や自治体は、最低制限価格や低入札価格調査といった仕組みでダンピングを防ごうとしています。本記事では、入札におけるダンピングとは何か、なぜ問題なのか、そしてどのような対策が取られているのかを、受注を目指す企業の視点で解説します。
この記事のポイント
- ダンピング受注は、適正な履行が見込めないほど低い価格での受注を指す
- 手抜き・下請けへのしわ寄せ・労働条件の悪化・安全対策の不徹底につながる
- 最低制限価格や低入札価格調査、品確法の措置でダンピングが防がれている
入札のダンピングとは
入札におけるダンピング(ダンピング受注)とは、その請負金額では公共工事などの適正な施工や履行が通常見込まれないほど、低い価格で受注することをいいます。競争入札は価格を競う仕組みですが、価格競争が行き過ぎると、採算を度外視した極端な安値受注が起こります。こうした受注は、健全な価格競争の結果ではなく、無理な安値によって仕事を取りにいくものであり、後々さまざまな問題を引き起こします。
ダンピングが生じる動機はいくつかあります。仕事が少ない時期に、赤字覚悟でも受注して従業員の仕事を確保したい、実績を作るために採算を無視してでも受注したい、といった事情です。しかし、こうした無理な受注は、目先の仕事は得られても、その後の履行段階で自社を苦しめ、結果的に発注者や社会にも悪影響を及ぼします。ダンピングは、受注者にとっても発注者にとっても、長い目で見れば望ましくないものだと理解しておく必要があります。予定価格や積算の考え方は予定価格とはもあわせてご覧ください。
ダンピングがもたらす弊害
ダンピング受注が問題視されるのは、その先に多くの弊害があるからです。最も直接的なのは、工事や業務の品質の低下です。採算の合わない金額で受注すれば、どこかでコストを削らざるを得ず、それが手抜きや品質の低下につながります。公共のインフラやサービスの質が損なわれれば、その影響は住民に及びます。安く発注できたはずが、結局は質の低い成果しか得られない、という事態を招きかねません。
次に、下請けへのしわ寄せです。元請けが赤字幅を圧縮しようとすると、その負担は下請けや協力会社に押し付けられがちです。下請けが原価割れの金額で働かされれば、下請けの経営が圧迫され、建設業や委託業界全体の疲弊につながります。さらに、そこで働く人の賃金やその他の労働条件の悪化、安全対策の不徹底といった問題も生じます。無理なコスト削減は、現場の安全や、働く人の処遇を犠牲にしてしまうのです。
もう一つ見逃せないのが、健全な事業者が育たなくなることです。適正な価格で、品質と労働条件を守って仕事をする事業者が、ダンピングを行う事業者に価格で負けて受注できなければ、まじめな事業者ほど淘汰されてしまいます。それは、公共サービスの担い手が先細りすることを意味し、長期的には発注者側にとっても大きな損失です。ダンピング対策は、こうした悪循環を防ぎ、産業の健全性を保つための取り組みでもあります。
最低制限価格による対策
ダンピングを防ぐ代表的な仕組みが、最低制限価格制度です。これは、発注者があらかじめ最低制限価格を設定しておき、それを下回る価格で入札した者は、たとえ最も安くても落札できないとする制度です。極端な安値を無効とすることで、採算を度外視したダンピング受注を機械的に排除できます。最低制限価格は、予定価格に対する一定の割合などをもとに算定されるのが一般的です。
この制度のもとでは、事業者は最低制限価格を下回らない範囲で、できるだけ安い価格を提示する競争になります。最低制限価格そのものは事前に公表されないことが多く、事業者は積算からその水準を見極めて応札します。結果として、最低制限価格の近辺に応札が集中し、同価によるくじ引きが生じやすくなる、という現象も起こります。最低制限価格は、価格競争を維持しつつ、その下限を画することで品質を守る仕組みだといえます。最低制限価格の詳細は当サイトの入札用語の解説もあわせてご覧ください。
低入札価格調査による対策
もう一つの対策が、低入札価格調査制度です。これは、あらかじめ設定した調査基準価格を下回る低い価格で入札があった場合に、その価格で本当に適正な履行ができるのかを発注者が調査する仕組みです。最低制限価格が機械的に排除するのに対し、低入札価格調査は、低い価格でも履行が可能と確認できれば契約を認める点が異なります。安ければ一律に排除するのではなく、履行能力を個別に確かめるアプローチです。
調査では、その価格でどう業務を遂行するのか、下請けや資材の見積りはどうなっているのか、労働条件は確保されるのかといった点が確認されます。調査の結果、適正な履行が見込めないと判断されれば、その入札は落札とされません。逆に、合理的な根拠が示されれば、低い価格でも契約に至ります。最低制限価格制度と低入札価格調査制度は、どちらもダンピングを防ぐ仕組みですが、機械的な排除か、個別の調査かという点で性格が異なります。案件によってどちらが採られるかが変わるため、参加する際は入札説明書で確認が必要です。
品確法などの枠組み
ダンピング対策は、個別の制度だけでなく、法律の枠組みでも位置づけられています。公共工事の品質確保の促進に関する法律(品確法)では、発注者の責務として、低入札価格調査の基準や最低制限価格の設定、その他の必要な措置を講じることが定められています。ダンピングを放置せず、発注者が積極的に対策を取ることが、法律上の責務として明確にされているのです。
あわせて、建設業者に対しては、入札時に入札金額の内訳の提出を求める取り組みも行われています。総額だけでなく内訳を示させることで、その価格が積算の裏づけを持つものか、無理な安値ではないかを確認しやすくします。こうした複数の仕組みを組み合わせることで、ダンピングを多面的に防ごうとしているわけです。これらの対策は、適正な価格で仕事をする事業者を守り、公共調達全体の健全性を保つことを目的としています。品質確保に関わる契約責任は契約不適合責任とはもあわせてご覧ください。
受注を目指す企業の視点
受注を目指す企業にとって、ダンピング対策は自社を守る仕組みでもあります。最低制限価格や低入札価格調査があることで、採算を度外視した安値競争に巻き込まれずに済み、適正な価格で仕事をする企業が正当に評価される環境が保たれます。無理な安値受注をしなくても勝負できる土俵が整っている、と捉えるとよいでしょう。まじめに積算し、適正な価格で応札することが、結果的に持続的な受注につながります。
一方で、自社がダンピングに走ることのリスクも認識しておく必要があります。無理な安値で受注すれば、履行段階で赤字を抱え、品質の確保にも苦労します。それが原因で工事成績が低下したり、発注者との信頼を損なったりすれば、次の受注にも響きます。目先の一件のために採算を犠牲にすることは、長期的には自社の経営を蝕みます。適正な価格で受注し、確実に履行して信頼を積み重ねるほうが、結局は受注力を高める近道です。
もし、価格競争が厳しくダンピングが横行しがちな分野で戦いにくさを感じるなら、価格以外の要素で評価される総合評価方式やプロポーザル方式の案件に軸足を移すのも一つの戦略です。技術力や提案の質で差がつく方式なら、無理な安値に頼らずに強みを発揮できます。自社の強みが価格なのか、技術や提案なのかを見極め、戦う土俵を選ぶことが大切です。総合評価方式の考え方は総合評価落札方式とはもあわせてご覧ください。
低入札調査を受けたときの対応
低入札価格調査制度が採られている案件で、自社の入札が調査基準価格を下回った場合、発注者から調査を受けることになります。このとき慌てないよう、あらかじめ心構えと準備をしておくことが大切です。調査では、その価格でどう業務を遂行するのか、根拠を説明することが求められます。人件費や資材費、下請けへの支払いをどう見込んでいるのか、無理のない積算になっているのかを、資料をもって示す必要があります。
ここで重要なのは、低い価格に合理的な根拠があるかどうかです。自社の効率化や、既存の設備・人員の活用によって、正当に安く提供できるのであれば、その根拠を明確に説明できれば契約に至ります。逆に、単に仕事を取りたいがために採算を無視した価格であれば、履行可能性を示せず、落札できません。調査を受ける可能性がある価格で応札するなら、その価格の裏づけを説明できる準備をしておくことが欠かせません。根拠のない安値は、調査の場で行き詰まります。
また、低入札で落札した場合、その後の契約で保証金の額が引き上げられたり、監督や検査が強化されたりすることがあります。これは、低い価格での履行がきちんと行われるかを、発注者がより慎重に確認するためです。低価格で受注することには、こうした履行段階での負担増も伴う点を理解しておく必要があります。安く受注できても、その後の管理コストや、品質確保の労力が増えることを見込んでおくべきです。契約時の保証の仕組みは契約保証金とはもあわせてご覧ください。
適正な価格で戦うために
ダンピングに頼らずに受注を続けるには、自社の積算力とコスト管理の精度を高めることが基本になります。適正な価格の中で、いかに無駄を省き、効率的に業務を遂行できるかが、健全な競争力の源泉です。ダンピングは一時的に仕事を取れても、根本的な競争力にはなりません。原価を正確に把握し、適正な利益を確保しながら、それでも競争力のある価格を出せる体制を築くことが、長く公共の仕事に関わるための土台になります。
そのうえで、価格だけで勝負しなくてよい案件を見極める目も養いたいところです。すべての案件が単純な価格競争ではありません。技術提案や実施体制、これまでの実績が評価される案件では、価格を無理に下げなくても、総合力で選ばれる余地があります。自社の強みが最も生きる案件はどれかを見定め、そこに力を集中することが、ダンピング競争から抜け出す道になります。適正な価格で、質の高い仕事を積み重ねる——この地道な姿勢が、結果的に最も強い受注基盤を作ります。
よくある質問
安く受注するのは全てダンピングですか
いいえ。効率化や工夫による正当な企業努力で価格を下げるのは健全な競争です。問題となるのは、適正な履行が見込めないほど採算を度外視した安値受注です。最低制限価格や低入札価格調査は、そうした無理な安値を見分けて防ぐための仕組みです。
最低制限価格と低入札価格調査はどう違いますか
最低制限価格はそれを下回ると機械的に落札できない仕組みで、低入札価格調査は基準を下回った場合に履行の可否を個別に調査する仕組みです。前者は一律排除、後者は個別確認という違いがあります。どちらが採られるかは案件により異なります。
最低制限価格は事前に分かりますか
多くの場合、最低制限価格は事前に公表されず、事業者は積算からその水準を見極めて応札します。価格が読まれすぎないよう算定に変動要素を入れる工夫がされることもあります。そのため最低制限価格付近に応札が集中し、同価によるくじが生じやすくなります。
まとめ
入札のダンピングとは、適正な履行が見込めないほど低い価格での受注を指し、品質の低下、下請けへのしわ寄せ、労働条件の悪化、安全対策の不徹底といった弊害を招きます。これを防ぐため、国や自治体は最低制限価格制度や低入札価格調査制度を設け、品確法でも発注者の責務として対策が位置づけられています。受注を目指す企業にとって、これらの仕組みは無理な安値競争から自社を守る土俵でもあります。適正な価格で応札し、確実に履行して信頼を積み重ねることが、持続的な受注につながります。価格で戦いにくい分野では、技術や提案で評価される方式に軸足を移す戦略も有効です。関連して予定価格とは、総合評価落札方式とはもあわせてご覧ください。
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※本記事は公開時点の情報をもとに作成しています。制度の内容や運用は発注機関や時期により異なる場合があります。具体的な内容は各発注機関の入札説明書や関係法令等の一次情報をご確認ください。