議会の議決を要する契約とは?金額基準と手続きを解説

入札で落札者が決まれば、すぐに契約が成立する——自治体の契約では、必ずしもそうとは限りません。金額の大きい工事については、議会の議決を経なければ契約が確定しないのです。落札から契約締結までに時間がかかる、議会の日程に左右される、場合によっては議決されないこともある。こうした仕組みを知らないまま応札すると、着工の見込みを誤ります。本記事では、議会の議決を要する契約とは何か、金額の基準、手続きの流れ、受注者が知っておくべき実務を解説します。
この記事のポイント
- 地方自治法に基づき、一定額以上の工事・製造の請負契約は議会の議決が必要
- 具体的な金額は各自治体の条例で定められ、団体によって異なる
- 議決を経るまで契約は確定せず、仮契約という形をとるのが一般的
なぜ議会の議決が必要なのか
自治体の契約は、首長の権限で締結されるのが基本です。では、なぜ一定の契約について議会の関与が求められるのでしょうか。
理由は、公金の支出に対する民主的な統制にあります。数億円規模の工事は、その自治体の財政に大きな影響を与えます。住民の代表である議会が関与することで、支出の妥当性がチェックされるという仕組みです。
予算の議決だけでは足りないのか、という疑問もあるでしょう。予算は事業の枠を決めるものですが、実際にいくらで、誰と契約するかまでは示されません。大きな契約については、その内容を個別に審議するという考え方です。
根拠は地方自治法にあり、条例で定める契約を締結することが議会の議決事項とされています。予算の仕組みについては支出負担行為とはもあわせてご覧ください。
金額の基準は自治体ごとに違う
ここが実務上、最も注意すべき点です。議決が必要となる金額は、全国一律ではありません。
地方自治法は、議会の議決に付すべき契約の範囲を条例で定めることとしています。これを受けて、各自治体が「議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例」といった名称の条例を制定しています。
その結果、基準額は団体によって異なります。都道府県では予定価格5億円以上とする例が多く見られますが、東京都のように9億円以上とする例もあります。市町村では、1億5,000万円以上といった水準を定める例もあります。
つまり、同じ金額の工事でも、発注する自治体によって議決が必要かどうかが変わります。複数の自治体から受注している企業ほど、この差を意識しておく必要があります。案件ごとに、その自治体の条例を確認するのが確実です。
仮契約という仕組み
議決が必要な契約では、落札から本契約までのあいだに仮契約を結ぶのが一般的です。
仮契約とは、議会の議決を条件として効力が生じる契約です。落札者が決まった段階で仮契約を締結し、その後の議会で議決されれば、本契約としての効力が生じます。
この仕組みがあるのは、落札から議会の開会までに時間が空くためです。議会は年に数回の定例会が中心であり、いつでも開かれるわけではありません。その間、契約関係を宙に浮かせておくわけにはいかないので、仮契約という形で当事者を確定させておくのです。
受注者にとって重要なのは、仮契約の段階では工事に着手できないという点です。議決を経て本契約となってはじめて、正式な契約として動き出します。着工の時期を見込む際には、この期間を織り込んでおく必要があります。
手続きの流れ
議決を要する契約の手続きは、おおむね次のように進みます。
- 入札・落札者の決定——通常の入札手続きによって相手方が決まる
- 仮契約の締結——議会の議決を条件とする契約を結ぶ
- 議案の提出——首長が契約の締結について議会に議案を提出する
- 議会での審議・議決——委員会での審査を経て、本会議で議決される
- 本契約の成立——議決により契約としての効力が生じる
- 着工——契約に基づいて工事に着手する
この流れで時間がかかるのが、議案の提出から議決までです。次の定例会まで数か月空くこともあり、その間は待つほかありません。緊急性が高い場合には臨時会が開かれることもありますが、通常は定例会の日程に沿って進みます。
なお、契約の相手方が決まる過程そのものは、通常の入札と変わりません。入札の手続きについては入札公告とはをご覧ください。
議決されない場合
提出された議案が、必ず可決されるとは限りません。議会が否決すれば、契約は成立しません。
実際に否決される例は多くありませんが、事業そのものへの反対、契約金額への疑問、入札手続きへの指摘などから、審議が紛糾することはあります。修正を求められたり、継続審査となって議決が先送りされたりすることもあります。
仮契約には、議決が得られなかった場合の取扱いが定められているのが通常です。契約が効力を生じないこと、その場合に損害賠償を請求しないことなどが記載されます。仮契約書の内容は、締結の前に確認しておくべきです。
受注者としては、議決までのあいだ、確定的な支出は控えるのが賢明です。資材の発注や人員の確保を本格的に進めてしまえば、万一の際に損失を被りかねません。
変更契約でも議決が必要か
実務でしばしば問題になるのが、契約変更の扱いです。
工事が進むなかで、設計変更によって請負代金額が変わることがあります。当初は議決を要する金額に達していなかった契約が、変更によって基準を超える場合。あるいは、すでに議決された契約の金額が大きく変わる場合。これらについて、改めて議決が必要になるかどうかが論点になります。
取扱いは自治体の条例や運用によって異なりますが、一定額以上の変更については議決を要するとする例が一般的です。つまり、変更契約のたびに議会の日程を待つことになり得ます。
これは工程管理に影響します。増額の変更が議決されなければ、追加工事の代金が確定しません。設計変更の協議は早めに始めておくことが、実務上の要点になります。設計変更の前提については条件明示とはをご覧ください。
議決の対象となる契約の種類
議決が求められるのは、工事の請負だけではありません。条例では、いくつかの類型が定められます。
- 工事または製造の請負——建設工事のほか、車両や機器の製造を含む
- 財産の取得——土地や建物、一定額以上の動産の購入
- 財産の処分——公有地の売却など
注意したいのは、物品の購入や業務委託は対象外とされることが多い点です。条例が対象を「工事または製造の請負」と定めていれば、清掃や保守の委託は、金額が大きくても議決の対象にならないことになります。
ただし、これも自治体の条例次第です。独自に対象を広げている例もあり得ます。自社が受注しようとしている契約が対象に当たるかどうかは、条例の文言で判断する必要があります。
なお、業務委託の位置づけについては業務委託とはもご覧ください。
議会の日程と工事の工期
議決を要する契約で、受注者が最も影響を受けるのが時間です。
自治体の議会は、年4回程度の定例会が基本です。3月、6月、9月、12月といった時期に開かれるのが一般的で、その間に議案が提出されます。落札の時期によっては、次の定例会まで数か月待つことになります。
この待機期間は、工期に影響します。契約上の工期が議決後から起算されるのか、当初の予定どおりなのか。前者であれば問題ありませんが、後者であれば、着工前に工期が食われることになります。
実務では、発注者側もこの点を考慮して工期を設定するのが通常です。ただし、議会の日程が動いたり、審議が長引いたりすれば、想定がずれます。着工が遅れて工期に無理が生じるようであれば、工期変更の協議を申し出ることになります。詳しくは工期変更・工期延長とはをご覧ください。
年度末に工事が集中する一因にも、こうした手続きの積み重ねがあります。施工時期の平準化が課題とされる背景でもあります。
議会で何が問われるのか
議案の審議では、どのような点が議論されるのでしょうか。受注者としても、関心を持っておく価値があります。
まず、入札の過程です。何者が参加したのか、落札率はどうだったのか、一者応札ではなかったか。競争性が確保されていたかが問われます。一者応札の問題については一者応札とはをご覧ください。
次に、契約の相手方です。地元企業が受注したのか、実績はあるのか。地域経済への効果という観点からの質問も出ます。
そして、事業の内容そのものです。本当に必要な事業なのか、規模は適切か、将来の維持管理費はどうか。契約の議決を機に、事業の是非が改めて論じられることもあります。
議会での質疑は、会議録として公開されるのが通常です。自社が関わる案件については、目を通しておくと、発注者が何を重視しているかが見えてきます。
受注者が備えておくこと
議決を要する規模の案件に応札する際、受注者が備えておきたい点を整理します。
第一に、応札前に議決の要否を確認することです。公告や入札説明書に記載があるのが通常ですが、なければ自治体の条例で基準額を確認します。議決が必要なら、着工までの期間が長くなることを前提に計画を立てます。
第二に、技術者の配置計画を柔軟にしておくことです。着工が数か月先になるなら、その間その技術者を他の現場に充てることもできます。逆に、着工を待って遊ばせておけば、経営の負担になります。配置の基準は監理技術者と主任技術者の違いとはをご覧ください。
第三に、仮契約書の内容を読むことです。議決が得られなかった場合の取扱い、仮契約の効力、保証金の扱い。形式的な書類と思って署名せず、条項を確認しておきましょう。
専決処分という例外
議決を要する契約であっても、例外的に議会を経ずに処理される場合があります。専決処分です。
災害復旧のように緊急を要し、議会を招集する時間的余裕がないと認められる場合、首長が議会に代わって決定できる仕組みがあります。ただし、あくまで例外であり、後日の議会で報告し承認を求めることになります。
災害時には、道路の啓開や堤防の応急復旧など、一刻を争う対応が求められます。議会の日程を待っていては間に合いません。そうした場面を想定した制度です。災害時の建設業の役割は災害協定とはをご覧ください。
とはいえ、専決処分が濫用されれば議会の統制が形骸化します。あくまで真に緊急の場合に限られるという前提を、受注者側も理解しておくべきでしょう。通常の工事で「急いでいるから専決で」という扱いは想定されていません。
国の契約との違い
ここまで自治体の契約を見てきましたが、国が発注する工事ではどうでしょうか。
国の場合、個別の契約について国会の議決を要する仕組みは、自治体ほど一般的ではありません。予算の議決を通じて統制が及ぶという考え方が基本になります。
ただし、国の契約には会計法に基づく手続きがあり、契約の締結や支出の各段階で所定の決裁が必要です。手続きの厳格さという点では変わりません。会計法上の検査の考え方については技術検査とはをご覧ください。
受注者の立場では、国の工事は落札から契約までが比較的早い、自治体の大型工事は議会の日程が絡む——という違いを押さえておけば足ります。発注機関の性格によって手続きの流れが変わるという点は、他の制度と同じです。
よくある質問
いくらから議決が必要ですか
自治体の条例で定められるため、団体によって異なります。都道府県では予定価格5億円以上とする例が多く、東京都のように9億円以上とする例もあります。市町村ではより低い水準の例もあります。案件ごとに条例の確認が必要です。
仮契約の段階で着工できますか
できません。仮契約は議会の議決を条件として効力が生じるもので、議決を経て本契約となってはじめて工事に着手できます。着工時期を見込む際には、この期間を織り込んでおく必要があります。
議決されなかったらどうなりますか
契約は成立しません。仮契約書には、議決が得られなかった場合の取扱いが定められているのが通常です。締結前に内容を確認し、議決までは確定的な支出を控えるのが賢明です。
まとめ
議会の議決を要する契約とは、地方自治法に基づき、一定額以上の工事・製造の請負などについて、議会の議決を経なければ成立しない契約です。公金の支出に対する民主的な統制という趣旨から設けられています。具体的な金額の基準は各自治体の条例で定められるため全国一律ではなく、都道府県では5億円以上とする例が多い一方、東京都のように9億円以上とする例もあります。落札から議決までのあいだは仮契約という形をとり、議決を経て本契約となってはじめて着工できます。議案が否決される可能性もあるため、議決までは確定的な支出を控えるのが賢明です。設計変更で金額が変わる場合も、改めて議決を要することがあり、工程管理に影響します。関連して支出負担行為とは、工事請負契約書とはもあわせてご覧ください。
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※本記事は公開時点の情報をもとに作成しています。議決を要する契約の金額基準や変更契約の取扱いは自治体の条例により異なります。具体的な内容は地方自治法および各自治体の条例をご確認ください。