工事書類の簡素化とは?受発注者の負担軽減の取組みを解説

公共工事の現場では、施工そのものと同じくらい、書類の作成に時間が割かれてきました。施工計画書、品質管理・出来形管理の記録、工事写真、打合せ簿、完成書類——量は膨大で、現場の技術者が事務作業に追われる状況が長く問題視されてきました。担い手不足と働き方改革が課題となるなか、国土交通省をはじめ各発注機関で進められているのが工事書類の簡素化です。本記事では、なぜ簡素化が必要なのか、具体的な取組み、そして受注者が実務でどう向き合うかを解説します。
この記事のポイント
- 工事書類の簡素化は、受発注者双方の事務負担を減らす取組み
- 提出書類の削減、様式の統一、電子化、重複の排除などが進められている
- 簡素化は「記録しない」ことではなく、必要な記録を効率的に残すこと
なぜ書類が多くなるのか
そもそも、なぜ公共工事では書類が多くなるのでしょうか。理由は明確です。公金を使う事業だからです。
税金を原資とする以上、契約どおりに施工されたこと、適正な品質が確保されたこと、費用が正当であることを、証拠として残す必要があります。完成した構造物を見るだけでは、中に隠れた鉄筋の配置も、使った材料の品質も分かりません。だからこそ、施工の過程を記録し、書類として残すことが求められます。工事写真が重視されるのも、同じ理由です。記録の考え方は工事写真とはをご覧ください。
しかし、この必要性が積み重なった結果、書類の量が過大になっていきました。発注機関ごとに様式が違う、同じ内容を複数の書類に書く、慣行として続いているが誰も使っていない書類がある——こうした非効率が現場を圧迫してきました。
問題は、書類作成に時間を取られることで、本来の施工管理がおろそかになりかねないことです。現場を見て回り、品質を確認し、安全を確保する——これが技術者の本来の仕事です。事務作業に追われて現場に立てないのでは、本末転倒です。加えて、長時間労働の一因にもなってきました。時間外労働の上限規制が適用された今、この問題は避けて通れません。働き方改革の流れは週休2日対象工事とはもあわせてご覧ください。
簡素化の主な取組み
書類の負担を減らすため、さまざまな取組みが進められています。代表的なものを整理します。
| 取組み | 内容 |
|---|---|
| 提出書類の削減 | 必要性の低い書類を廃止し、提出を求める書類を絞り込む |
| 様式の統一 | 発注機関ごとに異なっていた様式を揃え、作り直しの手間をなくす |
| 重複の排除 | 同じ内容を複数の書類に書く状態を解消する |
| 電子化 | 紙での提出をやめ、電子データでのやり取りに切り替える |
| 情報共有システムの活用 | 受発注者が同じシステム上で書類を共有し、提出・確認を効率化する |
特に効果が大きいのが電子化と情報共有です。従来は、書類を印刷し、押印し、現場事務所から発注者へ持参する、という手間がありました。電子的にやり取りできれば、この往復がなくなります。工事の成果を電子データで納品する仕組みも整備されています。詳しくは電子納品とはをご覧ください。
また、施工中の確認においても効率化が進んでいます。監督職員の臨場を、映像を用いた遠隔臨場に置き換えることで、移動時間と立会いの調整の負担が減ります。段階確認の効率化については段階確認とはをご覧ください。
簡素化で何が変わるのか
簡素化の取組みによって、現場では次のような変化が生まれます。
提出のタイミングが柔軟になる——従来は工事完成時にまとめて大量の書類を提出していましたが、施工中に作成した書類をそのまま完成書類として使う運用が広がっています。同じ内容を作り直す手間がなくなります。
押印や紙が減る——電子的な決裁や情報共有システムの利用により、印刷・押印・持参という一連の作業が不要になります。現場と発注者の距離が遠い工事ほど、効果が大きくなります。
受注者だけでなく発注者も楽になる——書類の簡素化は、受注者の負担軽減として語られがちですが、確認する側の発注者にとっても効果があります。膨大な書類のチェックに追われる状況が改善されれば、監督職員が本来注力すべき現場の確認に時間を割けます。受発注者双方の働き方改革につながる取組みだといえます。
あわせて、監督・検査の運用も見直されています。検査で求める書類を絞り込み、現場での確認を重視する方向です。完成検査の考え方は技術検査とはもご覧ください。
簡素化を進めるうえでの注意点
ここで誤解してはならないのは、簡素化は「記録しなくてよい」ということではないという点です。
公共工事の記録は、品質を確保し、後から検証できるようにするために存在します。特に、完成後に見えなくなる部分の記録は、代わりがききません。コンクリートを打設した後で「配筋の写真を撮っていなかった」と気づいても、もう撮れないのです。簡素化されたのは「提出を求める書類」であって、施工管理そのものではありません。
したがって、目指すべきは必要な記録を効率的に残すことです。書類のための書類、慣行で続いてきた重複作業は減らす。一方で、品質と安全を裏づける記録は確実に残す。この線引きが、簡素化の本質です。
もう一つの注意点は、発注機関ごとに運用が違うことです。簡素化の取組みは国土交通省が先行してきましたが、都道府県や市町村では進み方に差があります。国の工事と自治体の工事で、求められる書類が違うということも起こります。案件ごとに、仕様書や特記仕様書で提出書類を確認することが欠かせません。
受注者側でできる工夫
発注機関の取組みを待つだけでなく、受注者側でもできることがあります。
- 撮影・記録のタイミングを工程に組み込む——後追いで慌てて記録を集めるより、あらかじめ計画しておくほうが早い
- 様式をテンプレート化する——毎回ゼロから作らず、社内で共通の様式を整備しておく
- 現場でその場で記録する——事務所に戻ってから思い出して書くのではなく、タブレット等でその場で入力する
- 提出書類を着手時に確認する——何を出すのかを最初に把握しておけば、無駄な書類を作らずに済む
特に効果が大きいのが、最後の「着手時の確認」です。「たぶん必要だろう」という推測で書類を作り、結局出さなかった——という無駄は、意外と多いものです。着手時の打合せで、提出書類の一覧を発注者と確認しておけば、この無駄はなくなります。施工計画の段階での整理は施工計画書とはをご覧ください。
情報共有システムの役割
簡素化の実務を支えているのが、受発注者が同じ場所で書類をやり取りする情報共有システムです。工事情報共有システム、ASPなどと呼ばれます。
従来、打合せ簿や施工計画書は、受注者が作成して印刷し、監督職員のところへ持参して確認を受け、押印をもらって持ち帰る——という流れでした。修正があれば、また往復です。現場が発注者の事務所から遠ければ、それだけで半日かかることもあります。
情報共有システムを使えば、受注者が書類をアップロードし、監督職員が画面上で確認・決裁する形になります。移動が不要になるだけでなく、やり取りの履歴が自動的に残るため、「いつ何を提出したか」があいまいになりません。決裁の状況も可視化されるので、確認待ちで工程が止まる事態も減ります。
さらに、システムに蓄積されたデータは、そのまま電子納品の成果として使えるよう設計されています。工事の途中で作った書類を、完成時にもう一度整理し直す——という重複作業がなくなるわけです。これが、簡素化の効果として最も大きい部分かもしれません。
ただし、システムの利用は案件ごとに指定されます。すべての工事で使えるわけではなく、特に小規模な工事や、市町村発注の工事では、従来どおりの紙のやり取りが残っていることもあります。
検査の場面での簡素化
書類の負担が最も重くのしかかるのが、検査の前です。完成検査に向けて書類を揃える作業に、何日も費やすという声は珍しくありませんでした。
ここでも見直しが進んでいます。検査時に提示を求める書類を絞り込み、施工中に作成した書類をそのまま使う運用が広がっています。検査のためだけに、あらためて「検査用の書類」を作る——という無駄をなくす考え方です。
また、検査そのものの重点も変わりつつあります。書類を隅々までチェックするのではなく、現場で構造物を確認し、記録と照合する。書類は、その裏づけとして必要な範囲で確認する。こうした運用にすることで、検査の実効性を保ちながら、準備の負担を減らせます。
受注者側でも、検査を見据えた書類の整理を、日常的に行っておくことが有効です。工事が終わってからまとめて整理するより、施工中に随時分類しておくほうが、結果的に早く終わります。工事成績の評価にも、書類の整理状況は影響します。評定の仕組みは工事成績評定とはをご覧ください。
発注機関による違いに注意する
簡素化を実務で扱ううえで、最も注意すべきなのが発注機関ごとの差です。
取組みは国土交通省の直轄工事で先行し、そこで確立した方法が都道府県、市町村へと広がっていくという流れをたどっています。したがって、同じ時期であっても、国の工事では簡素化されている書類が、市町村の工事では従来どおり求められる、ということが起こります。
複数の発注機関から受注している企業ほど、この差に振り回されがちです。「前の工事ではこれで通った」という経験が、別の発注者では通用しないのです。逆に、簡素化されているのに従来どおりの書類を作り込んでしまい、無駄な手間をかけてしまうこともあります。
対処法はシンプルで、案件ごとに仕様書・特記仕様書を確認することに尽きます。提出書類の一覧が示されていれば、それに従います。示されていなければ、着手時の打合せで確認します。この一手間が、後の膨大な無駄を防ぎます。契約上の書類の位置づけは公共工事標準請負契約約款とはもあわせてご覧ください。
簡素化の効果を実感するために
制度として簡素化が進んでも、現場で効果を実感できるかは別の話です。せっかく提出が不要になった書類を、慣行で作り続けているケースは少なくありません。「毎年これを作っているから」という理由だけで続けている作業が、社内にないか。一度、棚卸ししてみる価値があります。
あわせて、社内での情報共有も大切です。簡素化の内容は、現場の担当者一人が把握していても意味がありません。会社として、どの発注機関でどこまで簡素化されているかを整理し、担当者が変わっても引き継げるようにしておくことで、はじめて組織的な効率化になります。
簡素化は、単に楽をするための取組みではありません。書類作成に費やしていた時間を、現場の品質確保と安全管理に振り向けること。それが本来の狙いです。浮いた時間をどう使うかまで含めて、簡素化の効果だといえます。
よくある質問
簡素化されると記録は残さなくてよいのですか
いいえ。簡素化されたのは提出を求める書類であって、施工管理そのものではありません。品質と安全を裏づける記録、特に完成後に見えなくなる部分の記録は、引き続き確実に残す必要があります。
どの書類が不要になったか分かりません
案件ごとの仕様書・特記仕様書で提出書類が示されます。発注機関により運用が異なるため、着手時の打合せで提出書類の一覧を確認しておくのが確実です。推測で作るのが最も無駄になります。
電子化にはどんな準備が必要ですか
発注機関が指定する情報共有システムの利用登録や、電子納品の要領に沿ったデータの整理が必要です。要領は案件ごとに指定されるため、着手時に確認し、社内の作成環境を整えておきます。
まとめ
工事書類の簡素化は、公共工事の受発注者双方の事務負担を減らすための取組みです。提出書類の削減、様式の統一、重複の排除、電子化、情報共有システムの活用といった方法で進められています。背景には、担い手不足と働き方改革という切実な事情があり、現場の技術者が本来の施工管理に時間を割けるようにすることが狙いです。ただし、簡素化は「記録しない」ことではありません。品質と安全を裏づける記録は確実に残しつつ、書類のための書類を減らす——この線引きが本質です。発注機関により運用が異なるため、着手時に提出書類を確認することが実務上の要点になります。関連して電子納品とは、工事写真とはもあわせてご覧ください。
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※本記事は公開時点の情報をもとに作成しています。書類の簡素化の内容・運用は発注機関により異なります。具体的な内容は各発注機関の仕様書・要領等の一次情報をご確認ください。