予備費とは?自治体予算での役割と使い方をわかりやすく解説

予備費とは、自治体の予算で、あらかじめ使いみちを決めずに計上しておく、予見しがたい支出に備えるための費用です。予算は、事前に使いみちを定めて編成されますが、災害への対応や、予想外の物価上昇など、あらかじめ見通せない支出が生じることがあります。そうした「まさか」に備えて確保しておくのが予備費です。自治体と取引する事業者にとっても、予備費は、緊急の発注や、予算不足への対応の原資となることがあり、発注者側の予算の仕組みとして知っておく価値があります。本記事では、予備費とは何か、その役割と使い方、そして知っておきたい制限を解説します。
この記事のポイント
- 予備費は、予見しがたい予算の不足に備え、使いみちを定めずに計上しておく費用(地方自治法第217条)
- 一般会計では予備費の計上が義務づけられている(特別会計は任意)
- 使うのは自治体の長の権限だが、議会が否決した費途には充てられない
予備費とは
予備費とは、自治体の予算において、具体的な使いみちをあらかじめ定めずに計上しておく、予備的な費用です。地方自治法第217条に根拠があり、予算外の支出や、予算を超えた支出に充てるために設けられます。通常、予算は「何に、いくら使うか」を事前に定めて編成されますが、予備費だけは、使いみちを特定せずに、いわば予算の中の余裕枠として確保されます。
なぜ、使いみちを決めない費用が必要なのでしょうか。それは、予算を編成する時点では見通せない支出が、年度の途中で生じることがあるからです。たとえば、災害が起きて緊急の対応が必要になったり、想定を超える物価の上昇で費用が不足したりする場合です。こうした事態のたびに補正予算を組んで議会の議決を得ていては、対応が間に合わないことがあります。予備費があれば、機動的に対応できます。予備費は、予算の硬直性を補い、不測の事態に備えるための、いわば予算のセーフティネットです。当初予算や補正予算の考え方は当初予算とはもあわせてご覧ください。
地方自治法では、一般会計について、予備費を計上しなければならないと定められています。つまり、予備費の計上は、一般会計では義務です。一方、特別会計については、予備費の計上は任意とされ、計上しないこともできます。自治体の予算には、必ず一定の予備費が含まれている、というのが基本的な姿だと理解しておくとよいでしょう。
予備費の使い方(充用)
予備費を実際に使うことを、「充用(じゅうよう)」といいます。予備費は、使いみちを定めずに計上されていますが、実際に使うときには、その支出が予備費を充てるにふさわしいものかを判断し、必要な費目に振り向けます。この充用を行う権限は、自治体の長(知事や市町村長)にあります。予見しがたい支出が生じたとき、長の判断で、予備費を機動的に充てることができるのです。
予備費が充てられる支出は、「予算外の支出」と「予算超過の支出」です。予算外の支出とは、予算に計上されていなかった、予見できなかったが支出せざるを得ないものです。予算超過の支出とは、予算に計上した額では足りなくなった支出です。いずれも、当初の予算では対応できない支出に、予備費で機動的に対応する、という考え方です。事業者との関係でいえば、災害復旧の緊急工事や、予算不足で執行できなくなりかけた事業への追加など、予備費が発注の原資になる場面もあります。
ただし、予備費の充用には、重要な制限があります。議会が否決した費途(使いみち)には、予備費を充てることができません。議会が「この使いみちには予算を認めない」と判断したものに、長が予備費を使って支出することは許されないのです。これは、予算に関する議会の議決権を尊重し、予備費が議会のチェックを免れる抜け道にならないようにするための、大切な歯止めです。予備費は機動的に使える一方で、議会の意思に反する使い方はできない、という枠がはめられています。
他の予算制度との違い
予備費は、不測の事態に備える予算制度の一つですが、似た仕組みと区別しておくと理解が深まります。予算に関わる制度には、当初予算・補正予算のほか、年度をまたぐ支出に対応する繰越明許費や債務負担行為などがあります。
補正予算は、当初予算の後に、必要が生じて予算を追加・変更するもので、議会の議決を経て成立します。予備費が、あらかじめ確保しておいた枠を長の判断で機動的に使うものであるのに対し、補正予算は、その都度、議会の議決を得て予算そのものを変更する点が異なります。緊急でなければ補正予算で対応し、機動的な対応が必要な場合に予備費を使う、といった使い分けがされます。
また、年度をまたぐ支出に対応する繰越明許費は、年度内に使い切れない予算を翌年度に繰り越すものであり、予見しがたい支出に備える予備費とは、目的が異なります。繰越明許費の仕組みは繰越明許費とはで解説しています。予備費は「予見できない支出への備え」、繰越明許費は「年度をまたぐ支出への対応」と整理すると、混同を避けられます。
事業者にとっての意味
予備費は、直接には自治体側の予算の仕組みですが、自治体と取引する事業者にとっても、知っておく意味があります。第一に、緊急の発注の原資になることです。災害復旧など、予見できなかった緊急の工事や業務は、予備費を充てて発注されることがあります。こうした緊急の案件に対応できる体制を持っていることは、事業者にとって強みになります。地域の事業者が、緊急時に自治体を支える役割を担う場面でもあります。
第二に、予算不足への対応の理解です。工事や業務の途中で、予想外の事情により費用が不足しそうになったとき、発注者が予備費で対応できる場合があります。もっとも、予備費が使えるかどうかは自治体の判断であり、事業者が当然に求められるものではありません。予算の状況によっては、補正予算での対応を待つことになる場合もあります。発注者側の予算の仕組みを理解しておくと、こうした場面での見通しが立てやすくなります。
第三に、自治体財政への理解が信頼につながることです。予備費をはじめとする予算の仕組みを理解している事業者は、発注者との協議において、予算の制約を踏まえた現実的な提案ができます。無理な要求ではなく、自治体の予算の枠組みを理解したうえでの対応は、発注者からの信頼を高めます。自治体ビジネスで長く選ばれるには、発注者側の事情への理解が、価格や技術力と並ぶ、大切な要素になります。
予備費が使われる具体的な場面
予備費は「予見しがたい支出」に充てるものですが、実際にはどのような場面で使われるのでしょうか。自治体が公表している予備費の充用状況を見ると、次のような例が目立ちます。
- 災害への緊急対応:豪雨や地震による道路・河川施設の応急復旧、避難所の開設に要する費用
- 施設の突発的な故障:庁舎や学校の設備が故障し、緊急に修繕が必要になった場合
- 感染症など突発的な事態への対応:想定していなかった保健・衛生関係の支出
- 物価・資材価格の急騰:当初の見込みを超える価格上昇により、予算計上額では不足した場合
- 訴訟・賠償への対応:判決や和解により、年度内に支払いが必要になった場合
事業者との関係でいえば、災害復旧の緊急工事が最も接点の多い場面です。災害が起きれば、道路の啓開や、崩れた法面の応急処置を、待ったなしで行う必要があります。補正予算を組んで議会の議決を待っていては間に合わないため、予備費を充てて発注されることがあります。緊急時に迅速に動ける地元の事業者が、地域を支える役割を果たす場面です。
こうした緊急の発注では、通常の一般競争入札を行う時間的余裕がないため、随意契約によることも少なくありません。地方自治法施行令では、緊急の必要により競争入札に付することができない場合が随意契約の要件の一つとされています。随意契約の要件は随意契約とはをご覧ください。
充用の手続きと公表
予備費を実際に使う「充用」は、どのような手続きで行われるのでしょうか。まず、支出の必要が生じた担当課が、その支出が予備費を充てるにふさわしいものかを整理し、財政担当課との協議を経て、長の決裁を受けます。決裁されれば、予備費から必要な費目へ充用され、支出の手続きに進みます。契約であれば支出負担行為、そして支出命令、支払いという流れです。この流れは支出負担行為とはで解説しています。
予備費の充用には、議会の事前の議決は必要ありません。だからこそ機動的に使えるわけですが、その分、事後の説明責任が重くなります。地方自治法では、予備費を充用したときは、その旨を議会に報告しなければならないこととされています。多くの自治体では、充用の状況をウェブサイトで公表しており、「いつ、いくらを、何に充てたか」を住民が確認できるようになっています。
この公表資料は、事業者にとっても有用な情報源です。過去にどのような場面で予備費が使われたかを見れば、その自治体が緊急発注をどの程度行っているか、どんな分野で突発的な需要が生じやすいかが読み取れます。災害対応の実績が多い自治体であれば、緊急時に対応できる体制を整えておく価値が高い、といった判断材料になります。
予備費の額と使い切りの考え方
予備費は、いくら計上すればよいのでしょうか。地方自治法は、一般会計に予備費を計上することを義務づけていますが、金額の水準までは定めていません。各自治体が、過去の実績や財政規模、想定されるリスクを踏まえて判断します。一般に、財政規模に対して比較的小さな割合にとどめられ、大きすぎれば「議会の議決を経ない支出の余地が大きい」として問題視されることもあります。
また、予備費は使い切ることを目的とするものではありません。年度末に予備費が残っていても、それは「予見しがたい事態が起きなかった」という良い結果であり、無理に使うべきものではありません。残額は、決算において不用額として処理されます。年度末に予算を使い切ろうとする動きが問題視されることがありますが、予備費については、そもそもそうした性格の予算ではない、という点を理解しておくとよいでしょう。
なお、年度内に支出が終わらない見込みが立った場合には、予備費ではなく、予算を翌年度に繰り越す仕組み(繰越明許費)で対応します。「予見できない支出に備える」予備費と、「年度をまたぐ支出に対応する」繰越は、目的が異なる別の制度です。繰越の仕組みは繰越明許費とはをご覧ください。
よくある質問
予備費は必ず計上されますか
一般会計では、地方自治法により予備費の計上が義務づけられています。特別会計については、計上は任意で、計上しないこともできます。したがって、自治体の一般会計の予算には、必ず一定の予備費が含まれているのが基本です。
予備費は何にでも使えますか
いいえ。予備費は予算外の支出や予算超過の支出に充てるものですが、議会が否決した費途には充てることができません。議会の議決権を尊重するための制限で、予備費が議会のチェックを免れる抜け道にならないようにする歯止めです。
予備費と補正予算はどう違いますか
予備費は、あらかじめ確保した枠を長の判断で機動的に使うものです。補正予算は、その都度、議会の議決を得て予算そのものを追加・変更するものです。緊急の対応には予備費、時間的余裕があれば補正予算、といった使い分けがされます。
予備費を使うと議会の議決が必要ですか
充用にあたって事前の議決は必要ありません。長の判断で機動的に使えます。ただし、充用したときは議会に報告することとされており、多くの自治体が充用状況をウェブサイトで公表しています。
予備費はどのくらいの額を計上しますか
法律で金額の水準は定められておらず、各自治体が過去の実績や財政規模、想定されるリスクを踏まえて判断します。一般に財政規模に対して小さな割合にとどめられ、大きすぎると議会のチェックが及ばない範囲が広がるとして問題視されることもあります。
年度末に予備費が余ったらどうなりますか
使い切る必要はありません。残額は決算で不用額として処理されます。予備費は予見しがたい事態に備えるための枠であり、事態が起きなければ使われないのが本来の姿です。
まとめ
予備費とは、自治体が予見しがたい予算の不足に備えて、使いみちを定めずに計上しておく費用で、地方自治法第217条に基づきます。一般会計では計上が義務づけられ、予算外の支出や予算超過の支出に、長の判断で機動的に充てられます(充用)。ただし、議会が否決した費途には充てられないという制限があり、議会の議決権を尊重する歯止めがかけられています。予見できない支出に備える予備費は、年度をまたぐ支出に対応する繰越明許費や、議決を経て予算を変更する補正予算とは、目的が異なります。事業者にとっても、緊急発注の原資や予算不足への対応の仕組みとして、また発注者との協議で予算の制約を理解する材料として、知っておく価値があります。関連して当初予算とは、繰越明許費とはもあわせてご覧ください。
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※本記事は公開時点の情報をもとに作成しています。予備費の運用は自治体により異なります。具体的な内容は各自治体の公表資料やe-Gov法令検索等の一次情報をご確認ください。